2011年11月20日日曜日

ネット調査とSNS、MROC、コミュニティパネル

《第70回》

●11月19日(土)の夜に、surveyml 萩原 雅之 (ML管理人)さんが、Twitterで、

今週、世界のマーケティングリサーチャーが最も注目した記事(#mrx タグによる)は「Are online panels finished?(オンラインパネルの終焉?)」だ。Yes 派と No 派、それぞれの予測と根拠。 http://ow.ly/7yRl8 #jmrx

とつぶやかれていました。

●「オンライン・パネル」ーつまり、日本でいうところの「(インター)ネット調査」ですーが、終焉したかどうか?というオンラインMRニュース・サイトであるResearchの記事の紹介です。
http://www.research-live.com/features/are-online-panels-finished?/4006405.article

●記事の読者の投票結果は、この記事を書いている時点では、

そう思う、つまりネット調査は終わったと思う人が16%、そうは思わない人が84%と、反対意見が圧倒的多数でした。

●多くの人は、ネット調査が近い将来なくなる、とは思ってはいないでしょう。

過去10年で調査方法の主流になったネット調査は、そう簡単にはなくならないでしょう。

●ネット調査が、なくなっていくという論者の根拠は、調査対象者の重要なソースが、FacebookやLinkedInなどのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)にとって代わられてゆくということです。それも効率的に、低価格で可能だという主張です。

つまり、ネット調査は、(なぜ消滅するかの理由は)SNSにとって代わられるという考えです。

●確かに、例えばFacebookのユーザーが、世界で8億人とか、日本で1,000万人突破などといわれ、調査の対象者としての消費者集団は、リサーチにとって非常に魅力的な存在であり、何かバラ色の世界を想像させます。そしてわざわざネット調査会社にお金を支払う必要がなくなるわけですから。

●他方、ネット調査擁護派は、SNSでは、①出現率の低いユーザーのリクルートは難しく、②対象者の属性データが不十分で、③調査に回答しようとして参加していないので、ターゲットとする消費者の有効なインサイトを得ることができないと主張。SNSは、ネット調査に代わるものでもなく、問題を解決する万能薬でもないとしています。つまり、

オンラインパネル(ネット調査) vs. SNS の構図です。

●ここでのSNSは、主に定量調査で使われるSNSを指しています。ソーシャルリスニングやMROCと対比される定性調査の対象としてのSNSではありません。

●ところで、MROCとSNS調査は異なります。日本では、ネットワーキングやソーシャルメディアのブームの中で、この両者は混同されて使われています。あたかもMROCが、SNS調査と同意語であるかのように使われています。

●MROCのリーディング・カンパニーであるコミュニスペースCommunispace社は、両者を次のように区別しています。

ソーシャルネットワークは、「(プロフィールをもった)個人」が中心で、MROC(調査課題解決のために特別に招待された個人に限定されたプライベートなクローズドなコミュニティ)は「(調査)目的」が中心です。SNSは個人が結ばれているもので、MROCよりもより広い概念(ある意味クローズドですがMROCよりは参加の範囲は広範囲)です。

MROCとSNSでは、回答率やデータの質が異なります。MROCは調査に特化したものですが、SNSはそうではありません。それゆえ、回答率やデータの質が異なったものになります。

欧米では、これらの両方の調査を行い、ぞれぞれ補完的に使っている企業も多くあります。(ここではSNSの参加者でMROCを形成するケースは除いています)
日本では、MROCとグルインの区別がよく議論になりますが(欧米では両者が異なることは自明)、欧米ではSNSとMROCの区別の方が重要視されています。特にMROC擁護派に人にとって、MROCは、SNSよりも有効なインサイトをえることができる点を強調する上で、この区分は重要になります。

●リスク低減の定量調査のためのネット調査は、代表性の問題やデータの品質の改善などの課題を今後いかに改善してゆくかが問われています。

また、SNSにも代表性の課題はありますが、SNS擁護派は、マーケティングにおける「代表性」の重要性を疑問視する意見を支持しています。

●ネット調査vs.SNSの定量調査に対して、新たな動きとして、スーパー・コミュニティ・パネル(SCP)という考えがあります。MROCは主に定性調査ですが、2,000-5万人ぐらいのパネルで主に定量調査を行う「コミュニティ・パネル」というものがあります。カナダのVisionCritical社が中心に提供しているサービスです。

これが将来自社の顧客データベースを基にした「既存顧客」50万ー100万人の規模で展開されるというのがSCPの考えです。

●10月24日(月)のTwitterで、

surveyml 萩原 雅之 (ML管理人) も、

企業自身が持つ1000万人レベルのビッグデータ、100万人レベルのスーパー・コミュニティ・パネルであらゆるリサーチが行われるようになる、というレイ・ポインターの近未来予測 http://bit.ly/ouQuSN #jmrx

がつぶやかれています。

Ray Poynter The future of communities and market research

●レイ・ポインター氏は、調査の90%は、既存顧客から構成されたSCPで行われ、その中で定量調査や、長期的及び短期的MROC、オンライン・グルイン、詳細面接、エスノ、アイディア出し、共創コミュニティ、ソーシャルメディアリサーチなど多くの調査が行われだろうと予想しています。

既存顧客だけでマーケティング活動の意思決定に必要なほとんどの調査を行う点については異論があると思われます。やはり新規ユーザーの獲得のために、ノンユーザーも調査対象者に含めようとする考えは根強いと推測されます。

企業が抱える膨大な顧客データの有効活用と、IT世界におけるビッグデータのトレンドに、このSCPの考えは合致します。

●より有効なインサイトの発見を求めて、グルインや詳細面接から、行動観察、そしてMROCへと進化する定性調査同様、定量調査も、10年前のネット調査が目指したように、さらに「早くて、安くて、よりベターな調査」を求めて、ネット調査、SNS、CP、SCPと進化の模索中です。

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