2010年1月25日月曜日

事業仕分けとマーケティング・リサーチ

●昨年暮れ、「事業仕分け」が話題になりました。
貴重な税金をいかに有効に使うかがその主旨です。

●同様なことが企業における「マーケティング予算」の
有効活用にも言えるでしょう。

特に「不況」下ではなおさら重要です。

●メーカーは、売上や利益計画が年初の計画通り
行かない場合、期の途中で予算をカットすことがあります。

次年度の予算を組む場合も、伸びが期待
できない場合も同様です。

●特にマーケティング・リサーチ(MR)の予算が
マーケティング予算に含まれる場合は大きな影響
を受けます。

毎年行っているトラッキング調査を残して、
あとは新製品開発関連のテストなどは
本数を減らしたりします。

これが調査会社の売上に影響を与えることになります。

多くの場合、リサーチ・マネジャーは、
マーケティング・ディレクターの意向に従うことになります。

販売促進施策と違って、リサーチ・プロジェクトが
直近の売上を生み出すことはないからです。

投資ではなく、「コスト」と見られます。

●最近は特にメーカーでは、調査プロジェクトを
発注するサプライヤー(あるいはベンダー)の
選定過程で、マーケティング担当者ではなく、

購買管理(Purchasing Management)や
調達管理(Procurement Management)を行う
部署の関与が多くなってきています。

特に外資系企業がそうです。

●調査会社から、調達部の担当者が「調査」について
わかるのだろうかという疑問がよく出されます。

政府の事業仕分け作業でも、
例えば、次世代スーパーコンピューターの開発予算削減
に対して、専門分野の人々から多くの反論が起こりました。

仕分けメンバーに、最先端の科学技術の重要性が
わかるのかどうかの疑問が投げかけられました。

同様に、調査プロジェクトのコンペに敗れた調査会社の
担当者は、「クライアントの調達部の人は、調査企画の
内容がわかって決定したのだろうか?」
という不満を抱くかもしれません。

●しかしこれは冷静に次のように考えるべきだと思います。

すなわち、調達部の人にもわかるように、
「調査企画書」の中に、調査実施の必要性や
他社に比べての自社企画内容の差別的優位を
説得できるような「証拠」を示す必要があると。

調査は客観的データを収集・分析するものですから、
なおさら「調査の有効性の実証的証拠」の提示が
求められます。

●もっともこれを言うのは簡単ですが、実際なかなか
現実面では難しいことです。

以前在籍したメーカーの社内の「調査企画書」の欄に
「ビジネス・インパクト」という項目がありました。

その調査を行ったならば、ビジネス上どのような
メリットやポジティブな影響があるのかを
記入しなければいけませんでした。

その当時は、失敗のリスクを下げるとか、
消費者をよりよく理解するなどの定性的表現を
多く使っていました。

私の『図解入門』の中でもマーケティング・リサーチの
役割として、
「リスク低減」や「現状診断」、「消費者理解」など
教科書的な解答を書きました。

●確かにMRの役割として「リスク低減」は重要です。

しかし、現実、1回当たり数百万のお金をかけて
製品テストを行い、
失敗のリスクを下げたにも関わらず、
売れない製品が
山ほど市場にあふれています。

リサーチの責任でしょうか?

MRは売れない製品の中から、
その中でも「特に売れない製品」をテストで除いている
という意味で「リスク低減」は行っているとも言えます。

●現行品(或いは競合品)と統計的に有意な差を
持つような製品改良も難しくなってきています。

多くの場合、現行品(或いは競合品)と同等(パリティ)です。

逆に統計的に有意に劣るような製品は、
開発やマーケテイングの担当者が見れば
判断できる場合が多いと思われます。

まったく製品テストを行わないで、「経験と勘」にだけにたよる
のも問題ですが、やみくもに儀式のように製品テストを行うのも
貴重な調査予算のムダづかいと言えるでしょう。

●以前いたメーカーで、なんどもなんども製品テストを
行った製品がありました。

基準値(この場合は競合品と同等の評価を得るでした)を
見たさない場合、再び開発をしてまた製品テストを行いました。

それでもダメならまた繰り返しです。約2年間ぐらい
それを繰り返し、競合と統計的に有意な差が
つかないレベル(しかし数字的には劣るレベルで
競合を上回ったわけではありませんでした)
になりようやく発売(上市)に至りました。

しかしその後、終売(販売中止)になってしまいました。

●製品テストにかけた数千万のお金はなんだったんでしょうか?

製品の出来があまりよくなかたので、リピート購買に
つながりませんでした。

もともと競合に比べて価格も高かったので、
トライアル購買もそれほど高くはありませんでした。

さらに、そのメーカーにとっても、弱いカテゴリー分野
でしたので、流通での配荷もよくありませでした。

マーケティングの場合、それぞれのマーケティング活動の
足し算よりも掛け算で成果が決まりますので、
それぞれそこそこでも、どこかが悪いとよく売れません。

このケースは製品も流通も良くないのですから、
終売に追い込まれのは時間の問題でした。

調達部から見れば明らかに「ノー」の回答がでる
調査プロジェクトでした。

●少し話はそれましたが、これまで怠ってきた
「調査の投資効果」を指標化する努力が
今後必要だと思います。

なぜならば、リサーチのROI(投資収益率)を
追及することがますます重要になると
思われるからです。

今後このBlogでもこの課題を
取り上げてゆきたいと思います。

●もっとも、メーカーの社内の中で、リサーチ以前に、
そもそもそのマーケティング・プロジェクト自体を
実施・遂行すべきかどうかの「仕分け」をする必要が
ある場合も見られますが。。。

現在の不況は、メーカーにとって、
そのマーケティング活動のROI
ーその計測方法の検討を含めてーを
見直すよい機会だと考えられます。

●仕分けと広告費についての関連記事:

その広告宣伝費が「仕分け」されないために:「調達担当役員」の管轄下で広告が戦っていくために必要なこと



《このBlogは毎週月曜日の午前中に更新されます。月曜日がお休みの時は火曜日の午前中です。また臨時に更新されることがあります。》

2010年1月18日月曜日

コンシューマー・プランナー

●先週、大手調査会社のリサーチャーの方から、書評のメールをいただきました。


●その内容は、

「遅ればせながら、執筆された本を拝読させて
いただきました。非常に興味深い内容で、かつわかりやすい
ので、社内の同僚にもお勧めしております。


内容も具体的な内容で、 調査企画時にあらかじめ考えなけれ
ばならないこと(アクションスタンダード等)の記載が明確に
書かれていて、随所に、リサーチャーの役割と、クライアント
の役割・判断責任などが記載されていて、実践的でわかりやす
かったです。

(クライアント判断で是非判断して欲しいところを、
担当者が決めかねて、調査会社に判断を求められるところが
現場としても多く。。)


あとはコンシューマープランナーの項も興味深かったです。

(リサーチ能力だけでなく、クライアントさんの仕事の内容
とかも理解する必要があると後輩に言ったりしてたりするん
ですが、ワードとしてうまい使い方が無かったので、ピンと来た
次第です)」。


●好意的な書評、誠にありがとうございました。


●「企画」の重要性について強調した点が伝わってよかったです。


●また、「コンシューマー・プランナー」(CP)に賛同していただけ
てhappyです。

「リサーチャー」は業界で通じる正式用語ですが
CPはいまだ認知されていません。CPは、私のオリジナル用語
ではありません。

私の知る限りでは、スミノフやギネス、ジョニーウオーカーの
洋酒ブランドで有名なDiageo(ディアジオ)ではリサーチャー
をこのように読んでいます。

(4-5年前に香港のディアジオから職の話が来た時、応募
ポジションの名称がCPと書いてありました)。


●従って、日本で履歴書に「コンシューマー・プランナー」と書い
ても通用しないでしょう。

リサーチャーが単にデータ収集屋ではなく、「リサーチ&
マーケティング・コンサルタント」レベル、

つまり売上拡大のためのマーケティング課題解決と
そのアクションのための問題発見と解決のための
リサーチと施策のプロとしてのCPにグレードアップする
願いをこめて、

あえてCPという用語を本書では提案しました。

現在の「リサーチャー」という言葉にそのような意味が本来はあ
るのですが。。。


●日本のリサーチャーも、収集したデータを用いて
情報分析を行い、もっと積極的に世の中
(クライアントや自社を含めて)に情報発信や
提言を行うべきだと考えています。

Social mediaはそのための絶好の場所を提供してくれています。

 ●人間の活動を大きく


「思考(Thought)」(企画や計画・仮説づくりなど)と、

「行動(Action)」(実行・実現化)

の2つに分けることができるとすれば、

データ収集は思考の材料を提供するその前の作業になります。

少なくともリサーチャーは、「思考」レベルの仕事を
したいものです。。。 ◆


《このBlogは毎週月曜日の午前中に更新されます。月曜日がお休みの時は火曜日の午前中です。また臨時に更新されることがあります。》

#150 レイ・ポインターのMR白熱教室2015 第4回(最終回)報告

<第149回> レイ・ポインターのMR白熱教室2015 第4回(最終回)報告 2015年6月23日 ● 第4回目のテーマは、 『データからストーリーテリング』 でした。 ● 7月にレイとの懇親会を予定しております。世界のMRのソート・リーダー(thought ...