<第128回> ますます拡大するリサーチャーの役割 2014年6月
● 会議で思ったことの1つとして、マーケティングにおける「リサーチの役割」がますます拡大されてきたということがあげられます。
これはマーケティング側が、リサーチに期待しているのか?
● 従来は、データ・サプライ、すなわちマーケティング活動の意思決定に必要な「データ」の収集と分析、結果を報告すればよかった市場調査。
ご存じのように、データ収集だけ、つまり「クロス集計表」だけの納品でよかった。
これはある意味、効率がよい仕事でした。データの集めっぱなしで、あとはマーケティングにおまかせ状態でした。
● ところが、私の知る限りでは、2000年初めごろから、「インサイト」「インサイト」と言われだしました。
私がアメリカのトイレタリー・メーカーであるコルゲート・パルモリブの日本法人ヒルズ・コルゲートに入社した1999年には、すでに本社のリサーチ研修で、「コンシューマー・インサイト」のトレーニングがありましたので、アメリカでは1990年代後半頃だと思われます。
2010年代に入って、ますます「インサイト」重視の傾向が加速しているように感じます。
これはこれで、ある意味よい傾向だと思われます。
マーケティング・リサーチは、単なるリサーチではなく、マーケティングのための「リサーチ」ですので、マーケティング活動に役立つものでなければなりません。
マーケティングを知らずして、よいマーケティング・リサーチはできないでしょう。
リサーチはあくまでも手段。
目的であるマーケティングを理解しないと、目的を見失った「調査のための調査」になってしまいます。
その意味で、リサーチの有効性やROIが、厳しく問われることは非常に健全なことかと思います。
● 今回の会議では、このような傾向を「インサイトホリック」insighthholicインサイト中毒と皮肉るプレゼンターもいました。
一方、インサイトinsightはあるけれども、まだまだインサイトフルinsightfulではないとの指摘もありました。
● で、今回の会議で言われたことは、
「我々は、インサイトを求めているのではない、行動の変化を求めている」と、
イギリスのブレイン・ジューサーのCOOのAlex Batchelor氏が、初日の午前のプレゼンで、いきなり問題提起を行いました。
9:40AM
The Goal Is Behavior Change, Not Insights
Alex Batchelor (BrainJuicer)
マーケティングの仕事は最終的には、態度変化でなく、消費者の行動変化、つまり、購買行動の変化ー自社製品や、ブランドを購入させることによって自社の売り上げやシェアを拡大することです。ゆえに、MRも、行動変化に焦点をあてるべきであるとの主張。
付け加えて、「行動にとって、コンテキスト(文脈)がすべてである」とも言っています。
このあたりは、モバイル・リサーチに対して期待が高まります。
● さらに、ベスト・プレゼン賞をとったトリガー・ポイントのWilliam Leach氏は、
「CEOは、インサイトを求めていない。彼らが求めているのは、ソリューションである」と強調していました。
確かにその通りです。
CEOがほしいのは、調査レポートではなく、売上をアップしてくれる、売れる製品や売れる販売方法(SP program)です。
2:20PM
Becoming Behavioral Designers: Applying Behavioral Research And Design To Change Consumer Behaviors
William Leach (TriggerPoint)
● でも、ちょっと待って下さい。
調査の結果から、売れる製品や販売方法を考えるのは、本来はマーケターの仕事ではなかったでしょうか。もっと言えば、調査結果から、インサイトを引き出すのも本来は、マーケターの仕事でした。(もともとリサーチ機能が分離するまでは、マーケターがすべてを行っていました)
社会が複雑になり、マーケターの仕事もますます高度化するようになり、彼らは非常に多忙になりました。じっくりデータからインサイトを読み取っている時間はありません。
そこで、リサーチャーのJob description職務内容が拡大されました。
アメリカなどは、企業内に大量に抱える高給のリサーチャーをもっと有効に働かせようとするマネジメントの意向で、マーケターの役割の一部が、どんどんリサーチャーの仕事になってゆきました。
(リーマン・ショック以降は、さらにデータ収集も外部の調査会社を使わないで、社内DIY化する方向に進みました)。
● これによって、リサーチャーに必要なスキル・セットがさらに拡大されています。
クロス集計までですと、統計的知識だけでもよかったでしょうが、レポートのビジュアリゼーションやストリーテリング、イノベイティブなアイディアの発想、デザインやマーケティング・センスなどなど。これらに加えて、ネットやSNS知識なども当然、要求されます。
● この機会を顧客・消費者のプロとして、「ビジネスをリードするリサーチ」を実現し、リサーチの価値をさらに引き上げる絶好の機会と考えるかどうかは、我々次第かと思われます。
今回の会議のメイン・テーマであるテクロノジーの進歩によるMRの革新の動きとともに、リサーチャーにとって、2010年代は、非常にチャレンジングな時代だと思います。
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