《第64回》
◆MROCとソーシャル・リサーチ
● ある雑誌が、「ソーシャル・メディア・リサーチ」の特集を計画しているとのことで、先週取材を受けました。
「えっ!そんなに早く?」というのが第一の感想でした。。。
そもそも、「ソーシャル・メディア・リサーチ」(SMR)って何でしょうか?
Social media marketing (market) researchが少々長いのでこう呼ぶ人もいます。単にSocial market reseachやSocial researchとも呼ぶ人もいます。
TwitterやFacebookなどのソーシャル・メディアが、昨年から急に盛り上がってきたので、とりあえず「ソーシャル・メディア・リサーチ」でしょうか?
日本では、まだ一部の人の間でしか、知られていないように思います。
●今年3月に出版された萩原雅之さんの「次世代マーケティングリサーチ」の中でも、SMRの用語はまだ使われていません。
代わりに、傾聴Listening(98頁)や、CGM分析(110頁)やバズ分析(111頁)という用語が使われていました。
SMRと次世代MRとはどのように異なるのでしょうか?
SMRは、次世代MRの1つであることは間違いないようです。
●あまり知られていないのも当然で、本家本元のUSにおいても、SMRは、いまだ定義が確立した用語になっていません。
元ForresterリサーチのTamara Barber(現Sr Director of Strategic Marketing at Affinnova)も次のように言っています。(2011年4月)
the actual application and practice of social media market research still remains a black box.
彼女は、social market researchを次にように定義づけています。(2010年5月)
The use of social media and tools to gain increased access to and insights from a company’s target segment in a way that adds value and depth to the researcher’s overall responsibility as an expert on the voice of the customer.
●SMRは、次のような使われた方をしています。
1つ目は、ソーシャル・メディアの動向や、影響、実態などを調査するという意味で使われています。
FacebookやTwitterの普及率が何%になったなどを調べる調査ということです。
2つ目は、ソーシャル・メディアを調査対象者のサンプル・ソースとして使ったり、SM内で調査を行うというものです。
例えば、Facebookの実名ユーザーを相手に調査を行う場合です。
3つ目は、ソーシャルメディア・マーケティング活動の意思決定を行うための情報を提供するためのリサーチです。MRがマーケティング活動の意思決定をサポートするのと同じ役割です。
ソーシャルメディアの効果測定やROIから、どのメディアを使うとか、最適な組み合わせはどうかを判断するなどの情報を提供します。
4つ目は、ソーシャル・メディア・マイニング(あるいはトラッキング)と同義語として使われています。
カナダのトロントにあるConversition Strategiesという会社は、
「ソーシャル・メディア・リサーチ」を全面にうたっている数少ない企業ですが、
このブログの今年の1月17日号「ソーシャル・メディア・リサーチ元年」でもご紹介しましたように、
Social media research is the application of scientific marketing research principles to the collection and analysis of social media data such that valid and reliable results are produced.
とSMRを定義づけています。
ソシャルメディアのデータに、MRの方法論を適用することによって、SMからビジネス上の意思決定に有効な妥当性と信頼性のある情報を収集しようと試みています。
SMモニタリングは単に、SMのレビューやトラッキングであり、キーワードの出現頻度などの量や、誰が、どこで、いつ発言しているか、センチメントのトラッキング、インフルエンサーの特定などを行うもので、一部は重複するけれども、SMRとは異なるものであるとも述べています。
Conversitionは、SMRを「サーベイのないMR」だと呼んでいます。確かに消費者に調査票を用いてその声を聞かなくても、ソーシャルメディア上で、消費者の声が溢れているわけです。
サンプリングやウエイトといったMRでよく使われる用語をSMRで使用しています。
最適なメディアを選択することをSMのサンプリングと呼び、メディアにバイアスがあれば、(例えば、ブログと、Twitterではその参加者属性が異なる場合や、消費者全体の傾向を知りたい場合)それを補正するウエイトづけを行うなどのMR手法の適用の必要性を主張しています。
ちなみに、Conversition Strategiesは、オンラインパネル会社のResearch Nowや、Peanut Labsなどの親会社であり、デジタル・データ・コレクションのグローバル・リーダーであるe-Rewards社にこの5月に買収されました。買収の理由として、顧客のニーズやウオンツに関する有効なインサイトを収集する上で、SMRはビジネスにおいて今後ますます重要になるからだと述べています。
このSMRの定義は、リスニング(傾聴Listening)と大きくオーバラップします。Social media listeningという人もいます。従来のブログやバズ・マイニングも含まれます。
以前ご紹介しましたように(1月17日の本ブログ)、
「リスニング(傾聴)の方法として、グランズウエルでは、
①プライベートコミュニティを立ち上げる、
②ブランドモニタリングを始める(110頁)
の2つの方法が示されていましたが、その後のUSでの展開を踏まえて、
私のもう1つのブログDigital Consumer Planner's Blogで紹介している
ARFのSteve RappaportのThe ARF Listening Playbookでは、
リスニング分野を次の6つに分類しています。
1.検索エンジンとメディア・モニタリング Search Engines and Media Monitoring
2.テキスト分析のためのソフトウエア・ソリューション Text Analysis Software Solutions
3.フルサービス・リスニング・ベンダー Full-Service Listening Vendors
4.オフラインとオンラインの口コミ Offline and Online Word-of-Mouth
5.バズ会社と口コミ・プログラム Buzz Agencies and Instigated Word of Mouth Programs
6.個別のブランド・コミュニティ Private Branded Communities」
と含まれる範囲も相当広くなります。これは次の5つ目の使われ方とも共通する部分があります。
5つ目は、 「MRのためのソーシャルメディアの利用」の視点から広くSMRをとらえるものです。Social media-related researchとも呼ばれています。すなわち、ソーシャルな特徴をもつツールを利用したMRが広く含まれます。MROCや、SNS、ブログやバズ・マイニングなど幅広く含まれます。
UKのリサーチャーRay Poynterが、彼の著書 Handbook of Online and Social Media Research(2010)でこの考え方を展開しています。
Social Media Research
By contrast to monitoring, social media research is a generic catchall that embraces social media monitoring, netnography (as defined by Robert Kozinets, i.e. requiring participation in communities, talking with people), MROCs, blog research (in the style of Revelation), creating discussions in existing social media (for example in Facebook), and potentially using the idea of bots to interrogate social media users in the way being floated at this year’s MRS conference.”
●ESOMARの定義も同様です。ESOMAR Guideline on Social Media Research
ESOMARは、Social Media Researchという用語を使っています。
Social Media Research (SMR) covers all research where social media data is utilised either by itself or in conjunction with information from other sources. Examples of current social media research include:
• Monitoring or crawling social media platforms (from automated monitoring of brand sentiment through to ad-hoc desk research)
• Ethnographic research (from observing online behaviour to collecting primary data in various forms, including ‘friending’ users)
• Co-creational techniques
• Online communities that generate or deliver consumer opinions, reactions, feedback on a regular, formal or systematic basis.
●以上のようにいまだ多様に使用されているSMR用語ですが、
やはりMRの変革において、上の4つ目と5つ目が、「ソーシャルメディア時代における新しい消費者理解の方法」として、大きく期待されています。つまり、リスニングとMROCです。
別の言い方をすれば、Asking(Questioning)からListening、あるいは、MR1.0からMR2.0への変化です。
消費者の代弁者としてのリサーチャーにとって、SMは不可欠なツールです。
将来ソーシャル・メディアという言葉自体が、それを包含するさらに大きな用語に変化するかもしれませんが、SMRにおける有効なインサイト創出の方法は、今後さらに進化してゆくものと思われます。
●最後に1つ気になっているのが、日本では、リスニングが「ソーシャル・リスニング」という言葉に定着化しつつあります。
それならば、同様にSMRもいっそのこと「ソーシャル・リサーチ」に統一されるか、あるいはソーシャルなMRということで、ソーシャル・マーケッティング(マーケット)・リサーチなのか、それともソーシャル・メディア・リサーチでしょうか。あなたのお好みはどうでしょうか?
残念ながら、グローバルでも未だ完全には統一化されていません。「ソーシャル・マーケティング」と同様、既に「社会調査」という用語が別の意味で定着しているからでしょうか。
<参照文献>
・ソーシャルメディアモニタリング
「本質的な消費者ニーズや、ライフスタイルの変化を読み取るチャンスがソーシャルメディアにはある。」
・Social Media Meets Market Research: A Compendium of Views
参考文献多数
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このブログは毎週、月曜日中に更新されます。
◆MROCとソーシャル・リサーチ
● ある雑誌が、「ソーシャル・メディア・リサーチ」の特集を計画しているとのことで、先週取材を受けました。
「えっ!そんなに早く?」というのが第一の感想でした。。。
そもそも、「ソーシャル・メディア・リサーチ」(SMR)って何でしょうか?
Social media marketing (market) researchが少々長いのでこう呼ぶ人もいます。単にSocial market reseachやSocial researchとも呼ぶ人もいます。
TwitterやFacebookなどのソーシャル・メディアが、昨年から急に盛り上がってきたので、とりあえず「ソーシャル・メディア・リサーチ」でしょうか?
日本では、まだ一部の人の間でしか、知られていないように思います。
●今年3月に出版された萩原雅之さんの「次世代マーケティングリサーチ」の中でも、SMRの用語はまだ使われていません。
代わりに、傾聴Listening(98頁)や、CGM分析(110頁)やバズ分析(111頁)という用語が使われていました。
SMRと次世代MRとはどのように異なるのでしょうか?
SMRは、次世代MRの1つであることは間違いないようです。
●あまり知られていないのも当然で、本家本元のUSにおいても、SMRは、いまだ定義が確立した用語になっていません。
元ForresterリサーチのTamara Barber(現Sr Director of Strategic Marketing at Affinnova)も次のように言っています。(2011年4月)
the actual application and practice of social media market research still remains a black box.
彼女は、social market researchを次にように定義づけています。(2010年5月)
The use of social media and tools to gain increased access to and insights from a company’s target segment in a way that adds value and depth to the researcher’s overall responsibility as an expert on the voice of the customer.
●SMRは、次のような使われた方をしています。
1つ目は、ソーシャル・メディアの動向や、影響、実態などを調査するという意味で使われています。
FacebookやTwitterの普及率が何%になったなどを調べる調査ということです。
2つ目は、ソーシャル・メディアを調査対象者のサンプル・ソースとして使ったり、SM内で調査を行うというものです。
例えば、Facebookの実名ユーザーを相手に調査を行う場合です。
3つ目は、ソーシャルメディア・マーケティング活動の意思決定を行うための情報を提供するためのリサーチです。MRがマーケティング活動の意思決定をサポートするのと同じ役割です。
ソーシャルメディアの効果測定やROIから、どのメディアを使うとか、最適な組み合わせはどうかを判断するなどの情報を提供します。
4つ目は、ソーシャル・メディア・マイニング(あるいはトラッキング)と同義語として使われています。
カナダのトロントにあるConversition Strategiesという会社は、
「ソーシャル・メディア・リサーチ」を全面にうたっている数少ない企業ですが、
このブログの今年の1月17日号「ソーシャル・メディア・リサーチ元年」でもご紹介しましたように、
Social media research is the application of scientific marketing research principles to the collection and analysis of social media data such that valid and reliable results are produced.
とSMRを定義づけています。
ソシャルメディアのデータに、MRの方法論を適用することによって、SMからビジネス上の意思決定に有効な妥当性と信頼性のある情報を収集しようと試みています。
SMモニタリングは単に、SMのレビューやトラッキングであり、キーワードの出現頻度などの量や、誰が、どこで、いつ発言しているか、センチメントのトラッキング、インフルエンサーの特定などを行うもので、一部は重複するけれども、SMRとは異なるものであるとも述べています。
Conversitionは、SMRを「サーベイのないMR」だと呼んでいます。確かに消費者に調査票を用いてその声を聞かなくても、ソーシャルメディア上で、消費者の声が溢れているわけです。
サンプリングやウエイトといったMRでよく使われる用語をSMRで使用しています。
最適なメディアを選択することをSMのサンプリングと呼び、メディアにバイアスがあれば、(例えば、ブログと、Twitterではその参加者属性が異なる場合や、消費者全体の傾向を知りたい場合)それを補正するウエイトづけを行うなどのMR手法の適用の必要性を主張しています。
ちなみに、Conversition Strategiesは、オンラインパネル会社のResearch Nowや、Peanut Labsなどの親会社であり、デジタル・データ・コレクションのグローバル・リーダーであるe-Rewards社にこの5月に買収されました。買収の理由として、顧客のニーズやウオンツに関する有効なインサイトを収集する上で、SMRはビジネスにおいて今後ますます重要になるからだと述べています。
このSMRの定義は、リスニング(傾聴Listening)と大きくオーバラップします。Social media listeningという人もいます。従来のブログやバズ・マイニングも含まれます。
以前ご紹介しましたように(1月17日の本ブログ)、
「リスニング(傾聴)の方法として、グランズウエルでは、
①プライベートコミュニティを立ち上げる、
②ブランドモニタリングを始める(110頁)
の2つの方法が示されていましたが、その後のUSでの展開を踏まえて、
私のもう1つのブログDigital Consumer Planner's Blogで紹介している
ARFのSteve RappaportのThe ARF Listening Playbookでは、
リスニング分野を次の6つに分類しています。
1.検索エンジンとメディア・モニタリング Search Engines and Media Monitoring
2.テキスト分析のためのソフトウエア・ソリューション Text Analysis Software Solutions
3.フルサービス・リスニング・ベンダー Full-Service Listening Vendors
4.オフラインとオンラインの口コミ Offline and Online Word-of-Mouth
5.バズ会社と口コミ・プログラム Buzz Agencies and Instigated Word of Mouth Programs
6.個別のブランド・コミュニティ Private Branded Communities」
と含まれる範囲も相当広くなります。これは次の5つ目の使われ方とも共通する部分があります。
5つ目は、 「MRのためのソーシャルメディアの利用」の視点から広くSMRをとらえるものです。Social media-related researchとも呼ばれています。すなわち、ソーシャルな特徴をもつツールを利用したMRが広く含まれます。MROCや、SNS、ブログやバズ・マイニングなど幅広く含まれます。
UKのリサーチャーRay Poynterが、彼の著書 Handbook of Online and Social Media Research(2010)でこの考え方を展開しています。
Social Media Research
By contrast to monitoring, social media research is a generic catchall that embraces social media monitoring, netnography (as defined by Robert Kozinets, i.e. requiring participation in communities, talking with people), MROCs, blog research (in the style of Revelation), creating discussions in existing social media (for example in Facebook), and potentially using the idea of bots to interrogate social media users in the way being floated at this year’s MRS conference.”
●ESOMARの定義も同様です。ESOMAR Guideline on Social Media Research
ESOMARは、Social Media Researchという用語を使っています。
Social Media Research (SMR) covers all research where social media data is utilised either by itself or in conjunction with information from other sources. Examples of current social media research include:
• Monitoring or crawling social media platforms (from automated monitoring of brand sentiment through to ad-hoc desk research)
• Ethnographic research (from observing online behaviour to collecting primary data in various forms, including ‘friending’ users)
• Co-creational techniques
• Online communities that generate or deliver consumer opinions, reactions, feedback on a regular, formal or systematic basis.
●以上のようにいまだ多様に使用されているSMR用語ですが、
やはりMRの変革において、上の4つ目と5つ目が、「ソーシャルメディア時代における新しい消費者理解の方法」として、大きく期待されています。つまり、リスニングとMROCです。
別の言い方をすれば、Asking(Questioning)からListening、あるいは、MR1.0からMR2.0への変化です。
消費者の代弁者としてのリサーチャーにとって、SMは不可欠なツールです。
将来ソーシャル・メディアという言葉自体が、それを包含するさらに大きな用語に変化するかもしれませんが、SMRにおける有効なインサイト創出の方法は、今後さらに進化してゆくものと思われます。
●最後に1つ気になっているのが、日本では、リスニングが「ソーシャル・リスニング」という言葉に定着化しつつあります。
それならば、同様にSMRもいっそのこと「ソーシャル・リサーチ」に統一されるか、あるいはソーシャルなMRということで、ソーシャル・マーケッティング(マーケット)・リサーチなのか、それともソーシャル・メディア・リサーチでしょうか。あなたのお好みはどうでしょうか?
残念ながら、グローバルでも未だ完全には統一化されていません。「ソーシャル・マーケティング」と同様、既に「社会調査」という用語が別の意味で定着しているからでしょうか。
<参照文献>
・ソーシャルメディアモニタリング
「本質的な消費者ニーズや、ライフスタイルの変化を読み取るチャンスがソーシャルメディアにはある。」
・Social Media Meets Market Research: A Compendium of Views
参考文献多数
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