2011年7月19日火曜日

MROCとJMRAトピックスセミナー

《第66回》

◆MROCの価値(続き)

●前回の投稿に対して、次のようなツイートをいただきました。

@sh0tk インサイトを創出する力が既存の手法よりも大きいと。他の点では既存の方が優れている点もあるしケースバイケースで使えるといいんだろうな。マーケティング・リサーチ・オンライン・コミュニティの略。>MROCの価値 http://ow.ly/5ITfs

●ご指摘の通りでございます。

完璧な手法はありません。条件(課題や予算、時間など)によりベターな手法を1つ選択するか、それぞれの弱点を補う手法を2つ以上組み合わせて適用することが良いと思います。

現実問題、予算や時間的制約で、調査の現場では、最良の解を求めて2つ以上調査手法を組み合わせてということはあまりないでしょう。

●MROCは、「コミュニティ」という利点(つまり、作られた調査環境ではなく、生活現場からの発言によって、調査が目指すリアリティに、より近い利点)以外に、

オンラインの力を借りて、現実の時間的、予算的制約を超えて、複数の手法を同時に適用できる点がアドバンテージの1つだと思います。

例えば、写真をアップした参加者にその内容を述べてもらって議論したり(エスノ+グルイン)、

議論の内容を(グルイン+デプス)

(ダイアリー+グルイン)

●また前回の投稿に対して、定性リサーチャーの方から多くの批判の声をいただきました。

インサイトの創出に絶対的自信をお持ちのグルインのモデレーターさんや、詳細面接のベテランさんからです。

インサイト創出には絶対的(完璧とか唯一正しい)方法はありません。

超理想的には、神のお告げで「こんなインサイトが出ました」が、お金も人の手間も、時間もかかりませんので一番よいのでしょうが、普通の人間にはそういうわけには行きません。

●単独のグルインでも、1人だけの詳細面接でも、ビジネスを成功に導く「インサイト」が発見できればよいわけです。どの方法がベストだとか、ベターだとかはありません。結果=インサイトが創出できるかどうかが、すべてです。

「インサイトのないMROCなんて」「インサイトのないグルインなんて」です。

また、同じグルインでも、MROCでも、担当する調査会社(あるいはその担当者)によっても、インサイトがでたり、でなかったりする場合もあるでしょう。

●MROCは、ソーシャルメディア時代にふさわしい消費者データの収集「ツール」にすぎません。しかし、有効で、効率的なツールです。

●インサイトを引き出すのは、その「ツール」を使う人間、リサーチャー次第です。

でも、有効に効率よく消費者データを収集すれば、これまで収集に使っていた時間をインサイト発見の方に傾注できるかもしれません。

●MROCを【実施する側】は、消費者側に入りこみ、「より消費者のことを知ろう・知りたい」という意欲、

他方、【コミュニティ参加者側】は、「企業や商品・ブランドを自分の意見でよりよくしたい・してやろう」という企業活動への参加・共創(コ・クリエーション)意欲が高いことが、MROCの成功要因の1つです。

特に、1年以上の長期MROCではない、短期MROC=戦術的共創コミュニティTCCは、課題特定、(参加者への)課題明示(参加者間の課題共有)で、課題解決型コミュニティです。

すなわち、参加者がコミュニティに参加した「目的」(期待されていることが)を明確に意識し、参加者が自分達のほしい製品を自分達で作ってしまおう(課題解決)という「物づくり」コミュニティ(イノベーション・コミュニティの場合)になることが重要です。

●MROCに対して、収集できる情報量が多いので、そのテキストを読むのが大変だとか、どのようにそれらを分析すればよいのかわからないといった「批判」をよく聞きますが、

そのような批判に対して、思わず「消費者の生活現場で起こる生の声をたくさん聞きたいとおっしゃたのは、あなたではありませんか」と聞き返したくなります。

それがリスニングです。

●テキスト・マイニング(TM)をすることが、「リスニング」ではありません。

安易にTMにたよるのは危険です。とりわけ、現時点でのTMの分析能力から判断してもそう言わざるをえません。

極端に言えば、リスニングには、投影法も、ペルソナも、脳科学も、バイオも、ニューロも、深層心理学も不要です。消費者が生活の現場で、ぽろっと発言した、不満や悩みごとの中に、消費者「ニーズ」が含まれている可能性があるからです。

だから、「生活の実態」をできる限り多く語ってもらうことが重要です。

●単純には、多くの人に、長い期間語ってもらう方がその可能性が高くなります。

それを読むのが大変だとか、それらをどのようにテキスト分析をすればよいのか、といったことを考

えるのは2の次であり、まず、リスニングすることが大切です。

●これまでの調査のシステムでは、多くの予算を使って、多くの調査を行っているにもかかわらず、

消費者が発言する機会=消費者の思いを企業側に伝える機会が少なかったことと、

他方、企業側(調査側)も、消費者の声を聞く機会が少なかった=聞いているようで、ごくほんの一部の声しか聞き切れていなかったと言えます。

ニューロの提唱者は、人間の行動の理由の多くが語られていないと主張します。それは、人間行動の多くが、意識ではなく、無意識(あるいは意識下Sub-conscious)で行われるというものです。

この「意識」の部分ですら、調査はすべてを測定していないのが現状だと思います。

MROCは、そのギャップを少しでも埋める役割をするツールだと言えるでしょう。


◆JMRAトピックスセミナー

7月14日(木)にJMRA主催の「ソーシャルメディア時代と調査の新たな価値」に行ってきました。

Twitter上では、

@SurveyML トピックスセミナーはいつもこの料金ですが、「行動観察」や「統計モデル」などに比べても少なさが際立ち、やはり関心を反映したのだろうと<RT @miyatender: ソーシャルなんたらに若干のhypeの香りを感じつつもその可能性を探ってるとこに、この参加料金だと... #jmrx

@SurveyML 今日発売の宣伝会議(7/15号)の巻頭特集は「ソーシャルリスニングとは何か」、まさに昨日のJMRAセミナーと同じ視点。広告業界でこれだけ注目されてるのだから、調査業界は無関心ではいられないはず。参加者少なかったのがホント残念。 http://ow.ly/5F8wn #jmrx

@SurveyML 企画した私ども研修委員会の力不足もありました<RT @iwaboko: 40数名しか来なかったそう。行ってきた上司が嘆いていた。調査業界危機感なさ杉。 RT @surveyml JMRA「ソーシャルメディア時代と調査の新しい価値」​セミナー #jmrx

@iwaboko @surveyml いえいえ、私のTL上では皆さん認知はされていたようで「行きたかった」の声が満載です。twitterやfacebookやっている方は当たり前のように意識していると思いますし。かく言う私も「行きたかった」一人です(汗)。

@miyatender    ソーシャルなんたらに若干のhypeの香りを感じつつもその可能性を探ってるとこに、この参加料金だと、カモにされるのはごめんだ、と感じて参加しづらかったです。 RT @m_echigoya: テーマに興味があっても、講演に期待感が持てないとか…JMRAだし、とか… #jmrx

@Experidge 昨日のJMRAセミナー「ソーシャルメディア時代と調査の新たな価値」参加人数が少なかったので、不人気であったとか、リサーチャーの危機感が足りないとかの評価。決して内容が悪かったわけではありません。ソーシャルメディアリサーチをリードされる日本の代表者お3方の講演は文句なしによかった。

@Experidge 問題は参加料。個人的に参加するには少々高い。他方、社内りん議を通すには「ソーシャル」ではまだハードルが高い。ソーシャルをやる時間があれば、調査プロジェクトの1本でも受注してきなさいがこの業界の本音。ソーシャルで業界の存在自体が問われているのですが。。。

@SurveyML そういえば昨日のJMRAセミナーに複数の社員を参加させてたのがインテージ、マクロミル、クロスマーケでしたね<RT @madarame: @surveyml 他の分野に目を向けられるのは、人的リソースを多く持つ大手でないと難しい、大手ネットリサーチ会社の何社かには期待 #jrmx

Blog上では、
2011-07-09 JMRAトピックスセミナー「ソーシャルメディア時代と調査の新たな価値

Facebook上では、

http://www.facebook.com/note.php?note_id=213805145329429


●150人定員のところ(Twitterによりますと)40名前後の参加は残念でした。

事務局ではないので、実際の参加者人数はわかりません。結構、JMRA関係者の方(・・・とか委員会の委員の方々)も多く参加されていたように感じました。(もちろん彼らの参加料は無料です)

しかし、JMRAさんには申し訳ありませんが、セミナーへの参加人数は、あまり問題ではありません。

●問題は、「3人の講演者が熱く語られた内容」が、どれだけ多くのリサーチャーに伝えることができるかだと思います。

実際、講演内容が講演中のUSTREAMでの実況や、終了後の講演内容の公開は、

JMRA 正・賛助会員社(者)1 名 22,000円+消費税=  23,100円
一般 1 名 27,000円+消費税=  28,350円

を出して出席していただいた参加者の方には申し訳ない面もあるかもしれません。

JMRA自体、「当日の録音機器等の持ち込みは、固くお断り致します。」と注意しております。

公開になると今後のセミナーの応募人数にも影響を与えるかもしれません。

●ちなみに、セミナーへの出席は、

直接、講演者に質問ができるとか、

他の参加者とネットワークを築くことができるなどのメリットがあります。

日本の講演会では、みなさんだまって座っている場合が多いと思いますが、

欧米の会議に行くと必ず、Networking Breakという名の休憩時間が十分取られています。

会議に参加して、ネットワークを築くことが奨励されています。

●2-3万円だすと10冊以上の良書が買えます。3人の方の講演内容がそれに値するとはいえ、貴重さん時間を割いて出席されるのですから、ネットワーキング作りすることによって、その参加の意義がさらにアップするかと思います。

会場で直接会って議論したり、人脈形成は、単に本を読むだけでは得られない「価値」を生みだす可能性があります。

●それゆえに、JMRXの勉強会も、これに見習って、講演の前に必ず、参加者間の「名刺交換」をお願いしています。

さらには、ネットワーキングを深める目的で必ず「懇親会」を設定しております。

どうぞご利用下さい。

●ということで、以上のことを考慮致しまして、ここでは、ごく簡単にポイントをお伝えできればと思います。

※講演資料は、幸いいずれJMRAのサイトで公開されると聞いております。


●プログラム内容は、(以下JMRAサイトからの一部転載)

『13:10-14:00 基調講演「ソーシャルメディア時代と調査の新たな価値」 

池田 紀行 氏(株式会社トライバルメディアハウス 代表取締役社長)マーケティングにソーシャルメディアを活用する際、何を知って何をすればよいのか。

分かりやすいソーシャルメディアの概論に始まり、多くの方が見落としがちな点など、が紹介されます。

そのマーケティングプロセスの中のリサーチの位置づけも講演いただきます。

14:00-14:40 事例① MROC(Market Research Online Community)

 (オンライン上のリサーチのためのコミュニティ、そこからデータをとっていく方法)

 山﨑 晴生 氏(株式会社クロス・マーケティング 取締役)          
14:40-15:20 事例② ソーシャルリスニング

(消費者が自ら発しているものを、マーケティングデータに使う方法)

萩原 雅之 氏(トランスコスモス株式会社 エグゼクティブリサーチャー)
15:30-16:10 パネルディスカッション・質疑応答

 消費者行動とマーケティング手法の変化

 必要なデータ・情報とその収集技術の変化

 リサーチャーのミッションとコアスキルの変化

講演者である3名の方でそれぞれの問題意識を深めながら、従来型調査とソーシャルメディアの接点を整理しこれからのリサーチャーのあり方について議論をします。

●参加のすすめ

JMRA研修委員会では、新しい調査技法やアプローチを取り上げ、トピックス・セミナーとして情報を随時発信しています。

これまでマーケティング・リサーチ業界のIT 技術の話題の中心は従来の調査にいかにIT 技術を活用するかというものでした。しかし、現在のソーシャルメディアの定着は、リサーチ業そのものを問いただすことになるのではないでしょうか。それはリサーチャーの使命を再定義することを迫る問いを発しているかのように思われます。

今回のセミナーでは、ソーシャルメディアの技術的な面だけでなく、リサーチャーが消費者・生活者とクライアントサイドをつなぐ架け橋としてどのような存在感を発揮できるのか、改めて考える契機としたいと思います。』

以上、JMRAからのご案内でした。

●より具体的内容は、

池田氏の発表:

1.情報大爆発とメディア接触状況
2.ネットナビゲーションの変化:ネットトラフィックは検索+ソーシャルへ
3.国内外ソーシャルメディアの最新状況
4.SMMの効果測定法と現状の課題
5.2020年のマーケティングコミュニケーション
6.まとめ:リサーチャー2.0へ

・ソーシャルメディアは知っている人と使っている人の間には深い溝がある

・ソーシャルメディアレボリューションのビデオ紹介




・効果測定の5つの罠と回避法:「測定」のために「測定」から抜け出そう

-目的が曖昧だから効果が測れない
-効果測定における「手段の目的化」が蔓延(測定のための測定9
-KPIばかりでKGIを測定していない
  KGI: Key GoalInidicator (重要目標評価指標):ブランド好意度や購入意向、推奨移行など
     KPI:    Key Performance Indicator (重要業績評価指標):リーチやエンゲージメント、口コミの量
や質など
  KPI測定の目標はKGI検証のため

⇒(筆者注)この部分の説明は、池田氏のお話の中で最も力が入っていたように感じました。KGIとKPIの考え方は面白いと思いました。リサーチャーから見て、ネットの場合、KPIが簡単にできる点にアドバンテージだと思っていました。しかし、KGI測定は、通常の調査でも、難しい点があります。なぜなら、現実の世界では影響を与えるものがさまざまで複雑に絡みあっている場合が多いからです。池田氏はこの測定について、リサーチャーに対する期待を述べられていましたが、残念ながら、リサーチの方でも完全にはその測定は成功するには至っていません。例えば、購入意向の場合、ネット以外にも、オフラインのさまざまな要因が影響しているので、どれがネットの影響の部分かを分離して取りだすことは非常に難しい点があります。実験的手法などでやる方法もありますが、なかなかうまくはいってはいません。

-測定指標と測定方法が間違っている
  
  費用対効果と、投資対効果を分けて分析することが第一歩

-マーケティングゴールとコミュニケーションゴールが混在してしまっている

・今後数年で世界の全てがソーシャル化する

・リサーチャー2.0へ:ソーシャル時代のマーケティングリサーチャーへの期待



●山崎氏の発表:

・MROC=共創コミュニティ

・今起きていること

・MROC誕生の背景

・MROCとは

・日本にMROCは存在しない?

・MROCやってみました

・まとめ

●萩原氏の発表:

・ソーシャルリスニングの考え方と事例

・PGショック

⇒(筆者注:PGのGlobal Consumer and Market Knowledge Officeである Joan Lewisの発言の紹介。ソーシャルメディアがサーベイにとってかわる。以前にこのブログ4月4日号でも全文紹介http://www.minnanomr.com/2011/04/blog-post.html

・ARFのリスニングの定義紹介:自然起こる会話、行動、シグナルを研究すること」
Steve Rappaport氏のListen First!の紹介

・ソーシャルリスニングが生み出す新しいリサーチ手法
①パートナーとして消費者が参加できる仕組み
②膨大な消費者行動・会話ログの収集・分析
③データ収集・分析のための先端テクノロジー

・PGのVocalpointとスタバのMy Starbucks Ideaの紹介

・言及ボリュームで消費者の関心度を測る

・内容分析で評判やコンテクストを知る

・PGのGillette Fusion(新製品)と、PepsiCoのTropicana(パッケージ)の事例紹介

・ソーシャルリスニングによる感情の可視化

・ソーシャルリスニングにみられるデータ収集・活用の発想
①蓄積されたデータから仮説を立て検証する
②ひとりの消費者をリアルに思い浮かべる
③同じ対象を継続的に追いかけて変化を知る
④ストリーミングや動画のようにデータを扱う
⑤事実で語らせる実験的な手法を取り入れる
⑥つながりをデータの解釈に活用する

・マイボイスコム+ホットリンクの例
・インテージの例

●最後にパネルディスカッションで、次のような質問が投げかけられました。

各パネラーの方の回答は以下の通りでした。

これまではどうだったか、ソーシャルメディア時代にはどうなるか。

1)消費者行動とマーケティング手法の変化
  □ ⇒ □

池田さん: Exposure (B to C)       ⇒ Engagement  (B into C )

山崎さん: 消費者志向          ⇒   共創

萩原さん: ファネル(10⇒1)     ⇒   逆ファネル(1⇒10)

2)必要なデータ・情報とその収集技術の変化
  □ ⇒ □

池田さん: Interview                 ⇒ Listening

山崎さん: Asking                      ⇒   Listening(観察を含む)

萩原さん: 左脳的(ロジック)    ⇒   右脳的(センス・感情)

3)リサーチャーのミッションとコアスキルの変化
  □ ⇒ □

池田さん: Science                    ⇒ Social Science (Human Science)

山崎さん: サーベイ・メソッド ⇒  Renovation and Innovation

萩原さん: アナリスト(解く)   ⇒   キューレーター(導く)


 
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