2011年7月11日月曜日

MROCの価値

《第65回》

◆MROCの価値

●最近、ツイッターでこんなつぶやきを見つけました。

@Xさん  Y社の弊社営業担当者からMROCの説明を受けた。う~ん、営業自身が半信半疑というか、MROCの価値を感じていないのよ。残念ながら、正直全くそそられなかった
(><)。

MROCのエバンジェリストとしては、非常に残念な結果です。

このツイートには実在の方がおられますので、以下はあくまでも一般的なお話とご理解ください。このようなことは、別にMROCの営業に限ったことではないと思います。

●その原因として、

①Y社の営業担当の方が悪いのか?

②MROC自体にサービス価値がないのか?

③はたまた、それを聞いた@Xさんの知識経験が不足していて、問題意識が低いので、MROCの価値が見出せなかったか?

繰り返しますが、これはあくまでも一般的な営業活動のお話です。XさんやY社とは全く関係がありませんことをご理解下さい。

●MROCはまだ内容が不明な方が多いと思います。グルインやネット調査のように、その言葉を聞いただけで、そのサービス内容が共有されるものではありません。内容の理解されないものをお客さんにはなかなか売りづらいかと思います。またお客さんも逆に発注しづらいでしょう。

営業の方も会社の上の方からMROCの説明を1回だけ聞いて、お客さんに売ってこいと言われても、その理解や、販売のモチベーションを高く持つことは難しいと思われます。

営業マン自身が、MROCの価値を強く感じるには、なかなか難しいサービスだと思います。

●MROCを日本の市場に導入し、普及を実践しているMROCエバンジェリストとしては、上の②の「MROC自体に価値がない」とは思いたくありません。

●ということで、今回はMROCの価値について少し考えたいと思います。

少しでも、MROC理解の参考になれば幸いです。

●よく引用されていますように、MROCの名付け親であるUSのフォレスター・リサーチ社のブラッド・ボートナーは、次のように言っています:

「マーケティング・リサーチ・オンライン・コミュニティ(MROC)は、従来の定性リサーチの世界に衝撃を与えた。なぜならMROCは、安くて、早くて、かつグルインなどの伝統的な定性リサーチの手法が現在提供できていない新しいタイプのインサイトを創出することができるからである

「新しいタイプのインサイトの創出と言っています。

私もこれにつきると考えています。

上のツイッターのケースでは、営業マンの話を聞かれた担当者の方は、MROCでインサイトが創出されるとは感じなかったのでしょう。

要はインサイト創出のための手段としてのソーシャルメディア時代の新しいリサーチ・ツールMROCですので。すべては、「インサイト」につきるわけです。それゆえ、MROCの代表的企業であるコミュニスペース社が、MROCをインサイト・コミュニティと呼称しているのは、的を得(射)た呼び方だと思います。

●現在MRは、さらなるビジネス上での有効性やROIが求められています。そのためには、インサイトの創出が不可欠です。従って、欧米では、MROCが注目されているわけです。

現に、MROCが、インサイトを創出し、リサーチのビジネス(売上アップや成長)上に大きく貢献できることをコミュニスペース社が実証しています。

コミュニスペース社が誇りに思っていることは、一度MROCの顧客になったクライアントが、ほとんどリピートをすることだと、先日ボストンの本社に行った時に担当者がそう言っていました。

つまり、コミュニスペース社のクライアントは、MROCの有効性を高く評価し、繰り返しMROCを利用しているそうです。

●ここまで「インサイト」という言葉を多用しましたが、ここでは定性のリサーチャーの方が言うような潜在的なニーズなどの深い心理学的な意味では使っていません。

もっと軽く、「売上アップやビジネス成長に役立つ有益な情報(結果や発見、気づき、アイディアなど)」といった意味で使っています。

MRがビジネスに貢献できる情報をインサイトと呼んでいます。

インサイト(深い消費者理解)についてはいろいろと議論される方もおられるかと思いますが、名称が何であれ、ビジネスに役立つ情報を生み出すのがMRですので、それを象徴する言葉として、「インサイト」というのは便利な言葉だと思っています。

●ところで、一般論として考えた場合、2時間のグルインと、1週間継続した非同時のグルイン(掲示板グルイン/オンライン・グルイン)では、後者の方が、有効なインサイトがでる可能性が高いように感じます。

なぜなら、まず時間の長さが異なる点です。それだけ参加者もじっくり考え回答することができます。

またグルイン・ルームではなく、日常生活において家庭で行われれる掲示板グルインの方が、よりリアルな実態や意見を聞くことが可能ではないかと思います。

もちろん、例外はたくさんあります。ここでは、一般論でかつ確率の大きさを比較していることをご留意下さい。

よって、インサイト創出力では、

★ グルイン・ルームでの6人の2時間グルイン < 非同時オンライン・グルイン

●また、単に性・年代や、週に1回、缶コーヒーを飲んでいるといった対象者条件を満たす人々からなる消費者の「パネル」で構成された非同時オンライン・グルインと、

同じ興味・関心をもつ人々が集まった形成された「コミュニティ」での非同時グルインでは、後者の方が有効なインサイトがでるのではないかとも感じます。

というのは、コミュニティ・メンバーはお互い興味や関心などの共通点で結ばれており、コミュニティに対してもキズナを感じているので、積極的な発言が生まれます。

関心度や購買行動が、単に平均的な、あるいは場合によっては平均以下の消極的な消費者が集まったパネルに、一方的に質問を投げかけて聞くよりは、有効で生産的な議論が行われる可能性が高いように思います。

★ パネルでの非同時グルイン < コミュニティでの非同時グルイン

●さらに、単にテキスト・ベース(文字情報)の議論だけを行う掲示板グルインよりは、写真や動画をアップしたり、ブログで日記を書いたりなど、さまざまなコミュニティ活動を行うことができるMROCの方がより参加者間の相互作用が生まれ、活発な自然な会話の中から、想定していなかったような有効なインサイトが生まれる可能性が高いように思います。

なぜなら、MROCでは、行動観察や日記などで生活実態をより詳しく、正確に把握することができるので、生活者の悩みや不満点、課題など=ニーズをより発見することができる可能性があります。観察だけでなく、その観察内容についても、参加者間でいろいろと議論をすることもできます。

★ 掲示板グルイン < MROC

●つまり、MROCは、消費者生活の起点で、さまざまな複合的なアプローチを取りながら、コミュニティ活動を通して、リサーチ課題を解決してゆこうとするものだと言えます。

どうして消費者パネルではなくて、生活者コミュニティでなければいけないかを理解することが重要です。つまり、コミュニティは、生活密着で、参加者間にエンゲージメント(キズナ)が醸成され、本音の会話がされやすい点において、生活者の真の声を聞くことができる可能性が高くなります。

●消費生活や市場の成熟・複雑化により、リサーチ課題も複雑になっています。なかなか消費者のニーズが見えにくくなっています。それに従って、課題解決への方法も、複合的なアプローチが求められています。

それゆえに、グルインでは、消費者ニーズが見えないような製品カテゴリーの「課題」に、MROCは最も向いていると思います。ここにまさに「MROCの価値」=存在意義があると思います。

●現在、MRの有効性の低下が叫ばれ、その変革が求められている中、

MROCの拡大を

「Askingでいいんじゃない?Askingのどこが悪いの?

これは経営者の方にとって本音でしょう。これまでの方法で、売上安泰であればハッピーです。わけのわからないものに投資を行うことはリスクが高いです。

でも欧米では、リスニングの必要性が強調されています。

でも欧米と日本では事情が異なる?日本ではまったくソーシャルメディアが普及していませんから?と反論することは難しい状況です。TwitterやFacebook、Mixiの普及を見れば、ソーシャルは人間に共通な現象であり、グローバルの動向です。

「大変なことをやろうとしているのでは?

複合的アプローチになれるまでは確かに大変です。だから、グルインだけでいいのでは?と、やりなれた1つの方法を繰り返すことの方が楽です。

新しいことを一から学んだり、複雑そうなので面倒だなと、最初から心理的バリアをはるか、

或いは、

「ITツールの発展によって、これまでのリサーチが目指してきたけれでも、現実不可能であったことが、ようやく可能になってきた」と興奮するか、

MROCに対して、どちらの立場をとられるでしょうか?

●グルインだけでは、生活実態や消費者の本音を把握することには限界があることは多くのマーケターやリサーチャーの方は、気づいているところです。グルインのフロー(ディスカッション・ガイド)で設定した「質問」の回答は、とりあえずは参加者に聞けば、埋まります。

でも、グルイン・ルームで参加者が、言い忘れたり、思いつかなかったことは、山ほどあります。現実の生活のごく一端をシェアしたに過ぎません。グルイン参加者の方は、「不完全燃焼」で会場を後にする人が多くいます。

これまでのサーベイやグルインは、消費者のごく一部の声を測定してきたもので、

他方、消費者は商品やブランド、サービス、企業について、日々1秒1秒、頭や心の中で感じたり、思ったり、評価したりしていることのごくごくわずかしか、言葉(文字)にして、企業に伝えることができていません。
 
近年エスノやニューロ、バイオメトリクスなど、文字であらわせない部分や無意識の測定が注目されていますが、文字で表す部分ですら、完全に測定しきれていないのが現実です。

現在は、ソーシャルメディアなどのITの進歩によって、このギャップが次第に埋められようとされる時代への移行期です。

●日本のMROCは生まれてまだ3カ月です。始まったばかりです。

今後は、MROC実施の各社が、事例を共有・研究することによって、「MROCの価値」を最大化するための「ベスト・プラクティス」の探求が望まれます。

MRがビジネスに貢献するために、

マーケティング/リサーチ課題の解決のためのインサイト(売上アップに役立つ有効なアクションー開発・施策を導くアイディア)の創出に磨きをかけると同時に、

ビジネス的にも効率的なリサーチ・ツールとして、その実施可能性、容易性、コスト面の改善も望まれます。



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