●前回ご紹介したオンライン・エスノグラフィ(OE)の
反響は大きかったようです。
●OEの別名をいくつか紹介しましたが、
さらにRemote Ethnographyとか、
Virtual Ethnography
という呼び方もあるようです。
●1点補足しますと、
OEは従来の伝統的なエスノグラフィ
=行動観察
(仮にTraditional Ethonography:TEとここでは呼びます)
よりも、次の点でも少し異なっています。
-より多くの対象者を調査することができる。
ーオンンラインで集めた定性データを
テキスト・マイニング手法を用いて、
迅速に大量のデータを分析することが可能。
この点で、時間的・費用的な削減が可能になります。
担当者の力量に負う面が多いTEに対して、
より客観的な情報を提供することも可能です。
●アウラマーケティングラボの石井栄造さんが
同時期にご自身のブログ「アウラなブログ」でも
エスノを取り上げておられるのでご参照下さい。
石井さん曰く、
『行動観察の結果から「大きな発見」があることは
マレと考えた方がよい。
語られるのは成功事例だけと考えるべき。』
●石井さんと言えば、同文館出版から
石井栄造『図解インターネット・リサーチのことがわかる本』を
この2月に出版されました(1700円)。
●石井さんは、ご存知『図解でわかるマーケティングリサーチ』
(日本能率協会マネジメントセンター)の著者でもあります。
この本は、2001年に出版されましたが、いまだに店頭にあり、
よく売れている本です。
●インターネット調査については、
自著である岸川茂著『図解入門最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本』(78ー81頁)でも触れましたが、
近い将来、海外の動向を踏まえて、
議論したいと思っています。
●石井さんの上の両書とも、MRをやさしく、わかりやすく
説明しています。非常に読みやすい本です。
自著の『図解入門・・・』を書いたときに、
もっとも参考にさせていただいた本です。
●さらっと読むとよく理解できて、何も感じないのですが、
いざ自分が「簡単に、わかりやすく書く」となると、
それは非常に大変作業です。
しかも石井さんの本は、見開き2頁で、
1テーマを完結されている点は、
さすがだと感心致しました。
書き始めると、あれもこれも書きたくなって、
テーマ1頁(もう1頁は図表)に納めるのは至難の業です。
見開き2頁で1テーマ+図解方式は、
読者にとってはスッキリして読みやすく、
理解しやすいと思います。
出版社の人の話では、最近は専門書は
値段も高く売れないそうです。
入門書のようなやさしい本の方がよく売れるそうです。
本屋でよく「図解。。。」という本を見かけるゆえんです。
●前置きが少し長くなりましたが、次は今日の本題です。
「マーケティング・リサーチの寺子屋」さんが最新のブログで、
石井淳蔵『マーケティングを学ぶ 』(ちくま新書)
を取り上げておられましたので、
私も、たまたま購入して読んでいましたので、
それに便乗し、若干コメントしたいと思います。
●今気付いたのですが、今週はたまたま「石井」
つながりになったようです。。。
●蛇足ですが、石井教授の著書にはいつも
「神戸大学教授」という肩書のみが
ついているのですが(現在は流通科学大学学長)、
実は1976年ー1989年まで、母校である
同志社大学の商学部でも教えておられました。
キャンパスでよくお姿をお見受けした思い出があります。。。
●本書の詳細な目次は「寺子屋」さんに譲るとして、
本書で気になったのは
「第IV部 第18章市場調査情報を使いこなす」(253-265頁)
という部分です。
参考になると思いますので、この部分だけでも
本屋で立ち読みして下さい。
●ポイントは、花王の「調査部」の例をあげられて、
「独立組織として調査部をもつことのメリット」
を考察されている点です。
調査が独立していないと、
①マーケティング部門がリサーチャーを
便利づかいする傾向が生じる(便利屋として使われる):
自分たちの使い勝手のよいようにリサーチを利用する。
調査担当者の立場が弱い分だけ、
マーケターはノーチェックで、自身の企画を
思いのままにすすめる。
②調査が形骸化する:
「マーケッターの考えをサポートするだけの調査」や
「役員の承認を受けるだけの調査」が行われやすい。
③やるべき調査をやらずにパスしてしまう可能性がある。
逆に調査が独立していると、
①マーケティング・プロセスに調査機能が
埋め込まれていると、企画担当者はあらゆる判断を
調査に基づいて行うようになる。
②調査部門は、ブランド・マネジャーの指示に
従って仕事をしなくなる。
③不明確な調査課題のもとに調査を実施しなくなる。
④調査分析手法の標準化や、
検証のための判定基準、
調査タイミングを
「いつも同じにやる」ことが可能になる。
-調査標準の確立/組織のマーケティング・リテラシーの向上、
とメリットを指摘され、
経営における調査資源の有効利用のために、
調査部門の独立性を主張されています。
●全く同感です。ご存知のように、外資系の企業では、
調査部門はマーケティング(本)部とは、
独立しているケースが多くあります。
しかし、規模の小さいところでは、マーケティング部
(日本では商品本部など)の中に
調査機能があることが多いと思います。
●私がメーカーにいた時も、入社時は
「マーケティング・サービス・マネジャー」という肩書でした。
まさにマーケティングにサービスを行うような感じです。
マーケティングに、「サービス」を行うことも重要ですが、
リサーチャーは、マーケティング部や会社、上司よりも、
「消費者」の方を向いて仕事をする方が、
結局、会社のためになるとも言えます。
「マーケティング・ディレクターがこう言っている」からではなく、
「消費者がこう言っているから・・・」という姿勢が、
消費者の代弁者としてのリサーチャーには大切です。
後に「マーケティング・リサーチ・マネジャー」に
名称変更されましたが、
マーケティング本部の中に在籍をして、
マーケティング・ディレクターやブランド・マネジャーの
「リクエスト」(時には指示)で動いていたことには
変わりはありませんでした。
●マーケティングのROIを高める意味でも、
リサーチは独立に機能した方がよいと思います。
●しかし、このためにはいくつかの課題を解決する
必要があります。
-製品や販促などのマーケティング活動の情報は、
マーケティング部が独占していますので、
両部門の間に情報ギャップが生まれて、
うまく調査機能が果たせなくなる可能性があります。
マーケティングの方は、調査段階になって初めて
情報を調査の方に伝達するなどの問題です。
開発初期から同行するのであれば、
同じ部署の方にいた方が動きやすいとも言えます。
両部門のコミュニケーションが重要です。
別のメーカーの時は、マーケティング本部から独立して
「ビジネス・ディベロップメント本部」の中に置かれ、
財務担当者がヘッドでした。
一見ROI的には理想のように感じました。
しかし、そう事は簡単に運びませんでした。
マーケティング本部との情報乖離が起こりました。
マーケティングの側にいて初めて、彼らの企画意図が
わかるような気もしました。
リサーチだけでは、マーケティングは料理できません。
やはり、マーケティングの深い理解があってはじめて、
有効なMRが可能だと実感しました。
また財務出身者にマーケティングやリサーチを
理解してもらうのも大変でした。
-調査側もビジネスの高い理解度が要求されます。
単にデータを収集・分析して、結果をマーケティングに
提示する役割以上の機能が要求されます。
調査データで、ビジネスの進路を舵とる重要な責任を
もつことになります。
リサーチャーのレベルアップが必要です。
―同時に、マーケティング側も、調査機能のより深い理解と
有効活用の方法の理解が求められます。
これはお互いさまです。
マーケティング側にリサーチを理解してもらうよりは、
リサーチャー自らがマーケティングをもっと理解する方が
てっとり早いと言えます。
―この場合、両者の責任の明確化も必要になります。
通常、新製品の販売などについては、マーティングが
全面的に責任をもつことになります。
これまでの多くの企業ではリサーチャーは
矢面にはたたされることは少なかったでしょう。
これも「リサーチ機能の低下」の一因かもしれませんが。。。
●独立のためには、ある程度の「予算」の独立も必要です。
不況になると、「調査予算」は、販促予算よりも前に
削減される傾向があります。
●どの企業のリサーチのヘッドの方も、
マーケティングと対等の立場に立って、
リサーチのビジネス貢献を高めることに
腐心されていることと思います。
口で言うのは簡単ですが、その実現はなかなか難しいことです。
●以上のことは、個々のリサーチャーの実力を
上げることにも繋がります。
個々のリサーチャーの実力アップなくして、
調査部門のパワーアップもないでしょうから。
●自著でも、単にデータを収集・分析を行い、
数字を提示するリサーチャーから、
マーケティング課題の発見と解決を目指す
「コンシューマー・プランナー」(20-21頁)への
実力アップを提案しました。
●つい最近もTwitterで次にような質問を受けました。
「@fujiokat: これからのリサーチャーにとって重要になる
能力・知識は何だろうか。リサーチ、データマイニング、
mROI、ソーシャルメディア? #J_MR」
●これに対して、
「@Experidge: @fujiokat 手段と目的で分けて考えると、
データマイニングやソーシャルメディアはあくまでの手段。
手段としてのツール修得も必要。
しかし同時にマーケティング・リサーチャーは、
マーケ課題の発見と解決能力が必要。
そのためには「仮説構築力」が目的として必須と考えます。 #J_MR 」と回答しました。
MRのQ&A用Twitter ZukaiMR参照。
仮説構築力をつけるには、マーケティングもリサーチも
理解する必要があります。
インサイトも結局は、仮説構築につながります。
●最後に、石井教授が、
『脚光を浴びるのが、最終使用者である
生活者の意向を調べる市場調査の仕事である。
「マーケティングの仕事に就いています」というと、
「市場調査のお仕事ですか」と言われるくらいに、
市場調査がマーケティングの代名詞ともなっている』
と書かれていました。
しかし、残念ながら、メーカーにいた時も、
調査会社にいた時も、上のような実感は
もったことがありません。
調査は黒子、縁の下の力持ちといった
サポート機能部門というのが実感です。
上のようになるために、
リサーチのビジネスへの貢献度を
高めることができればと願っています。
★姉妹ブログDigital Consumer Planner's Blogも
よろしくお願い致します。
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2010年2月22日月曜日
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