2011年4月4日月曜日

次世代マーケティング・リサーチ・プラットフォームとしてのMROC

《第55回》

※おことわり

『みんなのMR.COM』ブログの各号の分量が多くなってきましたので、

「今週のTOPICS」や「週刊リサーチ・ブロゴスフィア」、「 今週のMR IN ENGLISH」などの各特集をそれぞれ1つのブログに分離することにしました。ご了承下さい。詳細は、後日またお知らせ致します

『みんなのMR.COM』はTOPICS記事のみになります。

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TOPIC : 次世代マーケティング・リサーチ・プラットフォームとしてのMROC


●この10年、サーベイ(調査票を使って、人々の意見を収集する定量調査)のデータ収集方法は、

訪問面接(調査)から、インターネット(調査、ネット調査、オンライン調査)に大きく変化しました。

というか、とって代わられました。

vs

次の10年はどのような変化が起こるのでしょうか?

●以前このブログでも「サーベイ20年消滅論」をご紹介しました。

萩原さんの『次世代MR』でも取り上げられています(178頁)。

●最近も、P&Gのリサーチャーが、「ソーシャルメディア(以下SMと略記)がリサーチツールとして、サーベイにとってかわるか」といった記事がありました。(下記にその要約をつけておきました。ご参照下さい)

現在のMRにおいて、圧倒的に多く使われている「サーベイ」方法(ネット調査も、CLTも、ブランド・トラッキングも顧客満足度調査も、ショッパーに尋ねる店頭調査もすべてサーベイです。アンケートもそうです)のどこが問題なのでしょうか?

問題はないけれどもSMが普及してきたからでしょうか?

サーベイの歴史は古く、第2次世界大戦以前から開発され、1950年代には今の形が確立されました。そのデータ収集の手段の多数が、面接や郵送、電話などからネットに変化しましたが、心理学を基礎にして、調査票を介して消費者の声(意見や態度、事実など)を文字で集め、数字に変換して分析する点では基本的には変わっていません。

戦後の行動科学ー人文科学や社会科学の分野に自然科学の方法論を応用して、サイエンス化を進めた活動の影響を受けて、目に見えない態度(意識や意見など)を計量化して分析しようと、研究者は努力しました。

その結果、例えば、目に見えない「満足」という態度を「非常に満足」に5点、「やや満足」に4点などとつけて、計量化して、統計分析を適用して、顧客満足度の平均値が3.8などと数量化しました。

学界も業界も、ずっとこの計量化とその精緻な分析方法の開発に多くの時間を費やしてきました。


●市場調査の大きなミッションは、消費者の意見を知ることです。

その消費者の声を収集する方法として、サーベイが使われてきたわけです。

それも民主主義的に、一部の偏った人の意見ではなく、みんなを代表する意見の収集が要求されました。

一部の人の意見だけを参考にして作った商品は、よく売れないと考えられたわけです。市場の多数派の意見を特定した方が、売上が上がると思われました。

それでサーベイでも、対象者(サンプル)に対して、ターゲット(母集団)に対する「代表性」が強く求められました。さらにはサンプル誤差を小さくするために対象者数(サンプルサイズ)も10人や20人ではダメだと言われ、100人、200人、500人と多数になっています。

●サーベイ方法は、こちらから対象者を選んで、こちらからあらかじめ尋ねることを決めて(調査票)、代表している人に尋ねるという形になっています。


これまで、このやり方が、消費者の声を理解するのには、最もよいと考えられてきました。

結果も定量化できて、大きさや優劣の判断が、統計的にも検証ができる点で、優れていると思われていました。

●住居環境や女性の社会進出など、社会経済環境の変化によって、対象者の代表性がだんだんと確保するのが困難になり、RDDなどの電話手法も開発されました。

そこにネット調査が登場し、インターネットの利用者が増加するにつれて、調査方法として認知されるようになりました。

そこでは、インターネット対象者の代表性の問題が今日まで議論されつづけています。

●そして2004年のWEB2.0の登場と、その後のソーシャルメディア(SM)の普及が進行中です。

その中で、調査において、「代表性」はあまり問題ではないという議論もでてきています。

これはネット調査にとって朗報なんでしょうか?

●SMの普及に従って、WEB2.0=CGM(消費者生成メディア)により、
消費者みずからが発信する情報・意見の場が拡大しました。

ブログあり、SNSあり、口コミサイトあり、コミュニティありです。

何もサーベイを使って、消費者に(本音かどうかわからない)声をいつも聞かなくてもいいのではないかという意見もでてきました。日頃からその調査のテーマについて考えていない人に、5つの選択肢から無理やりに選ばせた意見の価値に疑問をもつ人も現れました。

逆にSMの中の大量の消費者の声の情報をいかさない手はないという意見もあります。

これがSMのリスニングです。

●同時に調査を使うユーザー側、マーケティングや経営層から、

もっと経営に調査を活用できないかという要求が高まりました。経済状況も影響して、
リサーチのROIも問われています。

それを象徴するのが、これまでの「データ」ではなく、「インサイト」という言葉の流行です。

企業の売上、成長に役立つ「インサイト」の発見が、調査に強く求められるようになりました。

●というような背景の中、

これまでの主役の方法であった「サーベイ」に非難の矛先が向けられています。

サーベイではインサイトが出せないとか、出せても効率が悪い。

いやサーベイが悪いのではなく、やり方、使い方が悪いのだと言う人。

行き過ぎた定量化や分析といった技法に走りすぎて、有効なインサイトを出しづらくなっているという人。

では、実際、企業や調査会社で、サーベイに代わるものが明日からあるのでしょうか?

グルイン?そうではない感じです。グルインも歴史が古いですが、未だにサーベイにとってかわっていません。

エスノ?それゆえに現在、日本で流行しています。しかし、インサイト出しには有効かもしれませんが、サーベイにとってかわるとは誰も思っていないようです。

●そこで、現在世界中が注目しているのが、SMです。

P&Gのリサーチャーの記事にもあるように。

WEB2.0=CGMのお陰で、消費者の本音(無理やり尋ねられて回答したものではない)が、SMの中に大量に存在しています。

サーベイのように、企業側が勝手に考えた課題ではない、企業側が予想もしていない課題を発見する可能性もあります。

なぜならその声は、限定された調査時(サーベイ時の10分や30分、グルイン時に2時間など)だけに考えられてものではなく、

消費者のリアルの生活の中から、自発的に、自然にでてきた声だからです。

この声のリスニングの重要性が指摘されるゆえんです。

●SMには、消費者の生声の宝庫としてのSM以外にも、

消費者集団=調査の対象者集団としてのSMの意味もあります。

インターネット人口が増加して、調査方法として、ネット調査が認知され、訪問面接にとってかわったように、

近い将来、SM人口が増加すれば、消費者集団としてのSMの価値が高まり、オンラインパネルやサーベイにとってかわる可能性は否定できません。

現在の調査(オンライン)パネルが、SM化は必須でしょう。

●今話題のMROCは、大きなSMマンションの中の例えば201号室や305号室のようなものです。つまり、MROCはSMの一部であり、クローズドなSMだと言えます。

広範囲のSMの中から、特定の関心やテーマに限定したクローズドな小SMです。

●MROCでは、グルインもエスノもデプスも、ダイアリーもHUTも可能です。

All you can eat 食べ放題とか、ワンストップ・リサーチとか、オールインワイン、ビュッフェ・スタイル・リサーチとも言われています。

既に、「コミュニティ・パネル」という考え方も生まれています。
いわば、MROCは、「次世代MRの新たなプラットフォーム」と言えるものです。


●調査手法にはパーフェクトなものはありません。その目的に応じてその中の最適なものを1つあるいは複数組み合わせて使ってゆくことになります。それゆえに、サーベイもなくなることはないでしょう。それを使って解決する課題がある限り。また、SMの中でサーベイも行われることになります。
しかし、サーベイの課題解決における重要性、優先順位は低下するのは確実でしょう。

もし仮にサーベイがなくなれば、これまでリサーチャーの必須知識であった(理解するのに結構手間がかかる)サンプリング理論や統計解析の知識は不要になります。平均値の差の検定などを理解しておく必要はなくなります。リサーチャーの中には、サーベイがなくなることを歓迎する人がいるかもしれません。逆に苦労してマスターした人からは、「それはないよ」という声が出るかもしれません。

サーベイも現状つきつけられている不満論、解消論などの批判を真剣に受け入れて、
インサイト創出のための統合ではなく、細部の分析に行き過ぎ、「木を見て森」が見えていない状況から脱して、「インサイト創出サーベイ」に生まれ変わる必要があります。


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要約紹介:

『ソーシャル・メディアが、サーベイ手法に代わって、リサーチ・ツールになるか?:P&Gが方法論的ドグマより、リサーチの予測力に期待』

By ジャック・ネフ (出典:Advertising Ageオンライン版、2011年3月21日)
http://adage.com/article/news/p-g-surveys-fade-consumers-reach-brands-social-media/149509/


世界でリサーチ予算が最も大きいP&Gのリサーチの責任者が、2020年までにサーベイの重要性が急減に低下して、その結果、ソーシャルメディア(以下、SMと略記)の重要性が増すと予想。



3.5億ドルの年間リサーチ予算を持つP&Gのグローバル・コンシューマー&マーケット・ナレッジ責任者のジョアン・ルイス氏は、NYで開かれたARF (Advertising Research Foundation)の年次会議Re:Think2011での「マーケット・リサーチはどのように変わるべきか」というパネル・ディスカッションにおいて、リサーチについて、次のような意見を述べた。



彼女によると、リサーチ業界は、「方法論、とりわけサーベイ・メソッドがすべての解決策である」という考えから脱却すべきである。



「方法論を絶対視しないことが必要である」



パネル後のインタビューで、彼女は次のようにも語っている。SMのリスニングは、サーベイ・リサーチにとってかわるものであると同時に、SMはまた消費者行動や期待を変化させるがゆえに、それにとって代わることを困難にもしている



「サーベイ・リサーチが、消費者と企業間の双方向のエンゲージメントや、消費者間のインターラクションの動きを見えなくしている」と彼女は語っている。



「消費者が、企業に対して、何か言おうとすれば、現在では多くの方法が存在している」



リサーチャーというのは、プロセスとか、妥当性や方法論などに、あたかもそれらが「イデオロギー」であるがごとく固執している。



ある一部の調査にとっては、母集団に対するサンプルの代表性というのは重要である、ことは否定しないと前置きをしながらも、「リサーチ業界には、代表性がすべてであるというほとんどドグマ的な信念とも言えるものが存在する」、そして、



「しかし、代表性がすべてであるという考えを捨てるべきである」



さらに続けて、「『SMはまだうまくいっていない』と多くの人々が言っている。



それで、SMのサンプルに代表性があるかどうかを今後、広範囲に検討する必要がある」と指摘している。



彼女はまた、その重要性が低下すると予想しながらも、P&Gはサーベイ・リサーチを今後も続けるだろうとも言っている。



但し、「サーベイ・リサーチを行う時は、より良く行う必要があるだろう」とも語っている。



「世の中というのは、役立たない仕事をする言いわけをするために動いているんだと考えるは簡単なことである。しかし言い訳は無用である。」



コカ・コーラのマーケティング・広告担当エクゼクティブ・バイス・プレジデントのジョー・トリポディ氏は、昨年の全国広告主協会の会議で、広告の露出回数を数えるよりも、ブランドに対する消費者の「感情表現」をカウントすべきだという提案を行った。



しかし、残念ながら、SMやエンゲージメント分析は、いまだ「我々が必要とする有効なレベル」には到達していないので、測定の標準化を開発しようとする業界の努力をサポートする必要があると彼は語っている。



ルイス氏は、リサーチャーは、アドバイザーというような「快適なポジション」に安住するのではなく、組織の意思決定者のそばで「意思決定のライン上で活躍する」存在になるべきであるとも語っている。



リサーチは、単に市場シェアを測定するだけでなく、マーケティング活動のとるべきタイミングやその活動の内容を予測したり、そのためのシナリオ・プラニングを行うような指標を開発すべきであると彼女は主張している。



すべては良いことである。しかし、クライアントのプロジェクトに対するお金の支払い方法は、そのような動きを支援するようなシステムにはなっていない。つまり、企業の購買担当者は、「フィールドワークの実費」プラス、利益をベースに支払おうとする傾向がますます強まっている、と語るのは、WPPカンターのチェアマンでありCEOのエリック・サラマ氏である。



「我々が生みだす価値の大半は、フィールドワークからではなく、複数のプロジェクトを横断するところから生まれるものである」と語り、提供した価値に対する報酬システムについて議論している。



前述のコカ・コーラのトリポディ氏によると、コカ・コーラも、2年前に広告代理店にそのようなシステムの導入を行ったということである。そして、もし調査会社の中にもそのような価値を提供する会社があるならば、調査会社に対しても、価値にもとづ支払いシステムを導入することは歓迎であると語っている。



「もし考え方を根本から変えてくれるようなインサイトを提供してくれる調査会社があらわれたならば、彼らにより多くのお金を支払うことには全くやぶさかではない。そんな調査会社がどこにあるかを教えてもらいたいものだ」と語っている。



もっとも業界に変化を求めるプレッシャーとは別に、調査業界は、少なくとも75周年を祝ったARFの会議の成功から判断しても、うまくいっているようにも見える。



事実、ARFのCEOであるボブ・バロッチ氏によると、今年の会議には、昨年よりも3割増の1,200人が参加し、100万ドルの収入があったということである。

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