2010年9月21日火曜日

リサーチ・スキルって、何だろう?



《第34回》



今週のTOPICS


◆リサーチ・スキルって、何だろう?

ある知人が、「我々のアドバンテージは、高いリサーチ・スキルを持っていることである」とよく言っています。またIT専門の友人も、リサーチ・スキルという言葉をよく使います。

リサーチャーではない人から見て、リサーチャーは、この「リサーチ・スキル」を持っていると思われているようです。
「スキル」を辞書で引くと、「〔経験や訓練によって得られる〕技能や腕前」と書かれています。


「技能」とは、「あることを行うための技術的な能力。腕前」。

スキルの一部として、企画段階では、標本理論や調査票の作成など、分析段階では、統計論や解析論、定性調査では、インタビューやプロジェクテイブ手法などがあげられるでしょう。リサーチャーはこれらの習得に非常に多くの時間を割いています。

リスクの低減や定量的実態把握のための調査において、正確な結果を得るには、これらのスキルの理解が必須です。誤差や偏りのない回答を得るための「質問文」の作成や、一般化できる結果を得るための代表性のあるサンプルの抽出が必要です。さらに、クロス集計や平均値の差の検定など統計解析の理解も要求されます。


これらの理解の重要性を示す例として、次の「認知率の相違」の例をご紹介したいと思います。

以前、リサーチにも詳しいと自負するマーケティング・ディレクター(その企業にはリサーチャーがいなかった)から、深刻そうにある相談を受けました。メインのサプライヤーであるA社と、営業に来たB社で行ったブランド認知率調査の数字が異なっているのでどうすればよいかというものでした。

報告書を見ると、調査対象地域と対象者の年齢条件が少し異なっていました。A社は1都3県、B社は関東、年齢も60歳以下までとそれ以上を含む点が異なっていました。

リサーチャーであれば、答えは簡単です。

対象の母集団が異なるので、当然結果(この場合、ブランドの認知率)も異なってきます。

従って、A社(年1回の定期的なU&A調査で認知率を測定)と異なる結果、それもA社の結果よりも、低い認知率を出した(マーケティング・ディレクターにとって、認知率は自身の業務の成績表でもあるので、これは大きな問題)B社の調査が間違っていたわけではありませんでした。B社の信用問題にもかかわる問題でした。

この調査を発注したディレクター側も、それを受注した調査会社側も、「調査条件」をちゃんと確認していない点が問題と言えます。もっともB社の調査は、自社独自の調査条件が固定の「オムニバス調査」でした。オムニバスが通常のU&Aよりも安いという理由と、直近の認知率を調べたいという理由でディレクターが発注したものでした。

結果的には、A社のU&Aが行われた半年前よりも、TVコマーシャルの効果で、認知率が上昇したかどうかの検証はできませんでした。数十万が調査予算がムダになりました。

これは「標本調査」を理解していないことから生じた基本的なミスの例です。

現在、ソーシャル・メディアを賑わしている新聞社の行うRDDの世論調査(内閣支持率)とネット調査結果との違いの議論なども、このあたりの理解の有無によって生じている部分があります。

10年ほど前ぐらいまでは、リサーチャーの要件としての「リサーチスキル」は、以上のような内容で十分でした。


しかし、マネジメント側からのビジネス活動における「調査」の役割のグレードアップ要求、すなわち、データ供給から、「インサイト」の提供へのニーズの高まったこの10年間に、「リサーチ・スキル」の中身が変化してきたように感じています。

有効なインサイトの発見には、リサーチャーのビジネスやマーケティングの理解のグレードアップが必要です。標本理論や統計論の理解だけでは、有効なインサイトの発見ができません。また、良い質問の作成によって、必ずしも役立つインサイトを探し当てることはできません。

これまでのリサーチ・スキルは、リサーチャーにとって「必要条件」ですが、「十分条件」ではなくなってきています。

さらに、マーケティングの理解だけでなく、ソーシャル・メディアによる消費者の意見の爆発によって、「定性データ」の重要性が高まっています。定性データから有効なインサイトを引き出す「リサーチ・スキル」の習得がますます重要になってくると思われます。

定性リサーチャーの方が従来から、グルインや面接、観察で行ってきたスキルです。言い換えますと、定量リサーチャーが定性リサーチからもっと学ぶ必要があります。定性リサーチャーの方も、デジタル・マケーティング時代に対応した「定性調査」や、ソーシャルメディアから学ぶ必要があります。

今後は、課題発見や課題解決、マーケティングのドライブとしてのインサイトの発見、それを施策につなげる消費者プランナーの養成には、定量、定性の区別なく、ハイブリッドな「リサーチ・スキル」が要求されてくると考えられます。

*私の『マーケティング・リサーチがよーくわかる本』の第1章もご参照下さい。




今週のHOSMR

Ray Poynter, ’The Handbook of Online and Social Media Research: Tools and Techniques for Market Researchers’の内容紹介メモ(著作権の侵害をしないように、独断と偏見によるポイントの要約)の第4回目です。

今回は、パートI 「第2章 ウエッブ・サーベイ・システム」の予定でしたけれども、

パートII 定性調査の「第6章 オンライン定性調査の概観」を先にご紹介します。

オンライン定量と定性の個別手法の説明に入る前に、両手法の概観を先にした方がよいとおもいますので。


パートII 定性調査


・オンライン定性調査と言えば、オンライン・フォーカス・グループスや掲示版(ブリティンボード)フォーカスを指していたけれども、2006年前後のソーシャル・メディアの台頭により、eエスノグラフィやテキスト分析、オンライン・リサーチ・コミュニティに拡大した。



・パートIIには以下の4つの章が含まれる。



第6章 オンライン定性調査概観

第7章 オンライン・フォーカス・グループス

第8章 掲示版グループスとパラレルIDI

第9章 その他のオンライン定性調査と、オンライン定性調査のまとめ



第6章 オンライン定性調査概観



6.1 定性調査と定量調査の定義



・リサーチの結果の違いが、データや方法によって生じ、リサーチを行うリサーチャーによるものではない場合が「定量調査」。

・それ以外で、分析が広く認められた研究理論や知識に基づいている場合は「定性調査」。



・定性調査には次のようなものが含まれる:

-フォーカス・グループス

-詳細面接(IDI)

-掲示版グループス

-セミオティクス(サインやシンボルの研究)

-観察定性調査(オフライン:買い物動向、オンライン:ブラウジング)

 *観察定量調査(スキャナーデータ、フットフォールのカウンティング、ウエッブ・サイト分析)

-エスノグラフィ(人々の生活観察/オフライン:ビデオ・エスノグラフィ、オンライン:ソーシャル・メディアやバーチャルの世界での人々の活動や、ウエッブカメラや携帯、PDAなどによって捉えられる人々の生活)

-ブログやバズ・マイニング

-オンライン・ディスカッション(オンライン・コミュニティ)



*ワード・カウントやタグ・クラウドは、限られた定量方法。



6.2 オンライン定性調査の成長と規模



・ESOMARのデータによると、オンライン定性調査は、定性調査の約4%



6.2.1 オンライン定性調査が発展しなかった理由



・過去15年間、オンライン定性調査がオンライン定量調査よりも成長が遅れた理由

①コストとスピードのメリットが定量ほど出せなかった

②グルインの非言語的、物理的なメリットがなくなることを懸念した定性リサーチャー達が積極的に推進してこなかった(オンライン定量調査は主要なリサーチャーやクライアントも推進)



6.3 オンライン定性手法入門



・次章からの具体的な手法の説明の前に、オンライン定性調査で使われる次のような

「用語」の確認



①オンライン・フォーカス・グループス(OLFGs):チャット・ソフトウエアの使用によるウエッブ・サイト上での議論

②掲示版グループス(BBGs或いはBBFGs):表面的考えだけでなく、より考慮された考えがコメントとして書き込まれる

③eメール・グループ(MEGsモデレイティッド):eメールによるグループ・ディスカッション。初期に人気があった

④バーチャル・ワールド:例「セカンドライフ」。現在は主流ではない

⑤パラレルIDI(インデプス・インタビュー):複数の詳細面接が同時進行。モデレータが複数の詳細面接を同時に行う。各参加者は他の参加者の意見を見ることはできない。

⑥定量サーベイの定性的解釈:オンライン定量調査での定性データの収集(オンラインによるイメージの解釈や、オンライン・カメラによるコメントの収集、サーベイ後のポータルの利用など)

⑦グループの遠隔地からの観察:ストリーム・ビデオの利用によるグルインの遠隔地からの観察



6.4 同時的、非同時的アプローチ



・シンクロナス・アプローチ(リアルタイム手法):リサーチャーと回答者がオンライン上に同時に存在



・アシンクロナス・アプローチ:同時に存在しなくてもよい。掲示板やeメール。日記も。

今後の主流。非同時性手法は、思いつきや表面的な回答(top of mind)から考慮した考え(considered responses: consideration, reflection, mturation)の分析を可能にする。



6.5 国際的プロジェクトと相違性



インターナショナル調査をオンライン定性手法で行うことはコスト、スピード面で魅力的。しかし「一般化」する上で、以下の点を留意する必要がある。



6.5.1 主要国と文化的相違



6.5.1.1 ヨーロッパとアメリカ



・ESOMARの調査によると、世界のMR(金額)の内の49%がヨーロッパ、30%が北米(AP14%)



6.5.1.2 参加者のリクルート



・オンライン・パネルからのリクルートついての賛否両論(USはパネルからのリクルートが多い)



6.5.1.3 オンラインとオフラインでの「正直さ」



・オンライン調査は「うそ」の回答が多いと思われるかもしれないが、逆に社会的に望ましい回答を考慮したりする必要がないので、より正直な本音の回答が得られるという調査結果がある。



6.5.1.4 グループのサイズ



・USの方がヨーロッパよりも1グループのグルインの参加者数が多い傾向。



・オンライン・グルインの参加者数は、オフラインよりも少なく、所要時間も1時間程度。



6.5.1.5 計画との一致性



・USのグルインの方がヨーロッパよりも、ディスカッション・ガイドに従って進行する傾向。

・オンラインでは、ガイドに従う傾向。



6.5.1.6 グループにおけるカウンティングと投票



・グルインで、多数決をとるのはUSの傾向。ヨーロッパでは行われない。

・オンライン・グルインでは投票は含まれる。





週刊リサーチ・ブロゴスフィア


Weekly Research Blogosphere


*1週間の世界中のリサーチ関連の主なブログ・テーマを簡便に
レビューすることができる「週刊リサーチ・ブロゴスフィア」です。
興味をもたれたブログの詳細は、リンク参照。
⇒は投稿に対する個人的コメントです。

◆先週(9月12日-9月18日)の1週間分の世界のリサーチ・ブロゴスフィア

今回は、24ブログの19投稿をレビュー


《海外編》


1.Jeffrey Henning 's Vovici


1.Industry Attitudes towards Social Media Research Practices (9/13)

ソーシャル・メディア・リサーチに対するリサーチャーへのアンケート結果。①対象者のプライバシーや、②コメントした人の特定、③コメント引用の許可、④コメント対象とのつながりの問題について。



2.Joel Rubinson on Marketing Research

お休み

3.Rearch Rockstar

お休み


4.Tom H. C. Anderson - Next Gen Market Research


2.More World’s Coolest Market Researcher (9/16)

・NGMR memes 応募作品


5.The Future Place Blog

3.TARSK 13 The Adoption Curve (9/12)

・TARSKの13回目。Adoptionカーブについて。

4.Social Media and Ethics (9/16)

ソーシャル・メディア・リサーチにおける倫理問題について。

6.Blackbeard Blog

お休み

7.Random Sampling

お休み

8.Straight Talk with Nigel Hollis

5.Are the trends toward localization still apparent? (9/13)

ローカリゼーションとグローバリゼーションの動向と、ブランドのとるべき方向について。

9.LoveStats


6.Geico chucks wood (9/12)

・早口言葉とコマーシャル

10.The Survey Geek 

7.Privacy continues be a major issue for our industry (9/15)

・ESOMAR会議の報告第1弾。プライバシー問題について。


11.Insites Blog


8.How to talk the talk of your customer? (9/14)

・オンライン・リサーチ・コミュニティで、参加者と話す場合には、専門用語ではなく、消費者の使う言葉で話すべき。

9.MOAbout – The Great Debate (9/15)

MOA (the Dutch Market Research Association)のMR業界の将来についての議論。

10.InSites awarded as most innovative company in Belgium (9/15)

InSite Consulting社が、マーケティング・コミュニケーション・メデイァ部門で、ベルギーの中で最もイノベイティブな会社に選ばれたことの報告。

11.New Dutch office is now officially open! (9/16)

InSites Consulting社のオランダ新オフィス・オープンのイベント報告。


12.The Researcher's Perspective

12.I'd Like an Order of Research Please (9/15)

ソーシャル・メディア・リサーチにおける「目的」設定の重要性。


13.Future of Insight


お休み


14.Voices of CMB

13.Tax Free Holiday Savings Moved Consumers off the Beach and into the Stores (9/15)

CMBが10月5日に行う無料のウエビナー「Engaging Consumers and Growing Market Share in the “New Normal”」の案内。


15.The Forrester Blog

14.Got Time For A Coffee? Come And Meet the Market Research Team In Person (9/17)

・今後のForresterが実施する会議の紹介と、そこでのコンタクトのリクエスト。



《国内編》



16.MARKETING RE-SEARCH BLOG

お休み

17.Marketing Research Watch

お休み

18.マーケティング・リサーチの寺子屋

お休み

19.tanoue40's Blog

お休み

20.アウラなブログ

お休み

21.マーケティング・リサーチャーの生態

お休み

22.いまんとこの最適解

15.「これも自分と認めざるをえない展」と属性 (9/13)

16.データ解析、基本の「き」は何か?(9/15)

・「さらに、「仮説を作り、それを検証するデータフォーマットを具体的に記述すること。私の中ではこれが最も重要なように思います。」

・「こういったデータフォーマットの記述とそのデータの分析プランを事前に作ること。
慣れてくると当然なのですが、これが私が最もデータ解析の基本と思うことです。」

17.ロジカルに考えることと問題解決 (9/17)

・「こういう気づきが得られるのが研修の醍醐味、なんですね。」

⇒ロジカルシンキングの研修さすがI社ですね。私も前職で「ロジカルシンキング」の研修を受けました。テキストは『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』バーバラ ミント (著),  山崎 康司 (翻訳)。講師は翻訳者のコンサルタントの山崎氏でした。欧米では論理的思考は大学までにきっちり教えられる非常に基本的なことですが、わざわざビジネスの世界で研修を実施しなければいけない日本の状況に疑問を感じています。私の本でも144頁に「ロジカルライティング」として紹介しました。

23.みんなのMR.COM

18.リサーチのROIを常に意識しよう! (9/13)

24.Digital Consumer Planner's Blog

19.The ARF Listening Playbook 書評の紹介 (9/16)


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《このBlogは毎週月曜日中に更新されます。月曜日がお休みの時は火曜日中です。また臨時に更新されることがあります》

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