2014年4月29日火曜日

#118 「本質直観」その2: MROCと本質直観


<第118回>   2014年4月

◆ 前回、ご紹介した水越康介首都大学東京大学院ビジネススクール准教授の『普通の人が、平凡な環境で、人と違う結果をだす「本質直観」のすすめ』(2014年、東洋経済新報社)は、リサーチャー必見の書です。

今回は、本質直観の視点から、MROCの可能性を探りたいと思います。


すなわち、「本質直観型MROC」の提案を行いたいと思います。

◆ ご存じのように、MROCが登場した背景には、既存のネット調査の参加率やデータ品質が低下し、グループインタビューの限界が指摘されるなど、経営者やマーケターがリサーチに期待する消費者「インサイト」が、従来のリサーチでは発見しづらくなってきたという現実がありました。

・ つまり、MROCはインサイト創出の有力な新しいリサーチ方法として期待されて登場しました。

MROCの名付け親であるアメリカ・フォレスター・リサーチ社のブラッド・ボートナーも、その論文「Web2,0はマーケット・リサーチを変革するだろうか?」(2008年4月)の中で、

「マーケット・リサーチ・オンライン・コミュニティズ(MROCs)は、従来の定性リサーチの世界に衝撃を与えた。なぜならMROCは、安くて、早くて、かつグルインなどの伝統的な定性リサーチの手法が現在提供できていない新しいタイプのインサイトを創出することができるからである」

と述べています。
 
Will Web 2.0 Transform Market Research?
http://www.forrester.com/Will+Web+20+Transform+Market+Research/fulltext/-/E-RES44159

そして、アメリカのコミュニスペース社が実際に実証したように、欧米の市場では、従来の調査では発見されなかったマーケティング活動に有効な数多くのインサイトが、MROCによって抽出されました。http://www.communispace.com/Home/

・ 言い換えれば、日本のリサーチャーも、MROCを活用して、インサイトを創出する努力をする価値があると言えるでしょう。

● MROC元年といわれる2011年の導入以後の日本におけるMROCの成果はどうでしょうか?

・ 供給側である調査会社と、需要側であるメーカーなどの事業会社とも、MROCに対する評価は、大きく2分されているのが現状かと思います。

・ 上記のボートナー氏は、MROCの3つの価値は、①早くて、②安くて(コストと成果から見て妥当な価格)、③有効なインサイトであると指摘しています。

これら3つの観点から、日本のMROCを見ると、

・ 6人2時間の従来のグルインと比較して、例えば1ヶ月50人のMROCは、消費者の実態や意識を把握できる量は圧倒的に優れています。MROCによって、より詳細な情報を得ることが可能になりました。しかも、発言録の入力作業は不要です。

MROCでは、1グループ、2時間の制約はありませんので、何度もプロービングを行ったり、生活に密着して、購入や消費の現場(MOT:moment of truth) からの消費者の声を聞くことができます。

・ しかし、その情報量の多さが同時に、供給・需要側双方の作業負担を大きくし、必ずしもタイミング的に早くなく、価格的にも、コストにみあう成果=有効なインサイトが得られないという声も多く聞かれることもまた事実です。

-3日で終了する手離れの良いグルインに慣れている定性リサーチャーの方にとって、運営のために、土日や1日24時間拘束される可能性もあります。

さらにコミュニティ終了後も、膨大な発言録と格闘しなければいけないMROCの負担感は大きいものです。

● そのような重い負担感の中で、実施されている現状のMROCの多くは、いわゆる「グルイン型MROC」と呼べるかと思います。つまり、グルインのオンライン版です。

さらに言い換えますと、2時間のグルインのディスカッション・ガイド(フロー)の1ヶ月拡大版であり、Asking型MROCと呼べるものです。

● 本来MROCは、従来のAsking型から脱却した新しい調査手法、つまりListening型の手法です。

・ 企画側が考えた仮説をベースにした質問群を一方的に調査対象者に尋ねてゆくQ&A方式のAskingではなく、MROCの参加者間の自発的な会話を「傾聴」する、あるいは会話やアップされた画像や映像(セルフ・エスノ)を「観察する」Listening作業です。

その中から、想定外の気づきや発見、驚き、Aha!と思う瞬間があり、そこに「インサイト」があると考えられています。

・ 2011年10月に、アメリカ・マイアミで開かれたコミュニスペース社のMROCのワークショップに参加した折、講師のマニラ・オースティン女史(Vice president of Research at Communispace)は、コミュニスペースのMROCの他社に対する優位性は、「参加者による自発的な問題提起の高さにある」と自慢げに話していました。


このことは、ソーシャル分野におけるエポックメーキングな著書であるシャーリーン・リーとショシュ・バーノフの「グランズウエル:ソーシャルテクノロジーによる企業戦略」の中でも紹介されています。

コミュニスペースが運営して成功した米国総合がんネットワークのコミュニティの中で議論された76のお題のうち、実に76%にあたる58のお題が、参加者から自発的に出されたものでした。(116頁。2008年、翔泳社)

モデレータ(コミュニスペースでは、コミュニティ・マネジャーのことを「ファシリテータ」と呼称)からの一方的な「お題」の提供ではなく、参加者が問題点と思ったお題を自ら提起し、参加者同士で議論しあうというものです。

・ 事前に作成したディスカッション・ガイドに基づかない参加者の自発的な議論の中に、想定外の驚きが含まれる可能性は高いように感じます。

その中に企業やブランドが抱える真の問題・課題が含まれているかもしれません。

逆に、間違った仮説に基づいたAskingから得られた(想定範囲内の)結果の有効性は、低いと考えられます。

従って、想定外の気づきや驚きのあるMROCの実施が望まれます。

・ この「相手に聞くのではない」ことや、「驚きの発見」は、まさに「本質直観」に通じるものがあります。
 

前回のブログで参考文献として紹介した山崎氏は、「MROCも本質直観のアプローチ」であると指摘されています。

山崎晴生氏「本質直観の視点からmrocを捉え直すhttp://sssslide.com/www.slideshare.net/haruoyamasaki/20140310-mroc-32097647

● 前回述べたように、本質直観のエッセンスは、驚き⇒確信⇒問い直しの自己作業サイクルです。

1ヶ月やそれ以上のMROC実施期間を通して、対象カテゴりー製品やサービスについての事前にある知識や経験からえた直観から確信を得て、それらを問い直す作業を繰り返しながら、MROCを進行させる。そこからインサイトを抽出してゆく。

そんな「本質直感型MROC」はどうでしょうか?

数時間のワークショップと比較して、MROCの方は時間的に、より多くの「問い直し」作業の繰り返しが可能かと思います。またワークショップでは、限られた時間内での問い直しが必要ですが、MROCはより時間的ゆとりがあるかと思います。

単に事前に決められたことをQ&A方式で、期間中に尋ねて、その回答内容を要約するグルイン型MROCに対して、問題を「自分の課題」として考え、じっくり丁寧に「問い直し」の作業を重ねる本質直観型MROCの実施が望まれます。

・ マーケティング・リサーチャーは、社会調査や世論調査のリサーチャーではなく、「マーケティング」のリサーチャーです。つまり、リサーチの対象、目的が「マーケティング」です。単なるデータ供給者(サプライヤー)ではなく、マーケティング活動への提案力が要求されます。

それゆえに、マーケターにだけまかせないで、リサーチャーも、マーケティング課題と格闘するさまざまな製品やサービスのカテゴリーにおいて、本質直観のトレーニングを行うことは、リサーチおよびリサーチャーのレベルをアップする上でも重要なことかと思います。

・ もちろん、製品カテゴリーやブランドに最も詳しいマーケターが、積極的にMROCに参加して、リサーチャーと、本質直観作業を協働することが望ましいことは言うまでもありません。

信頼をベースにして、リサーチャーとマーケターとの「共同しての構築作業」(232頁)を通じて「お互いの認識の再構築」が期待されます。

◆ 以上のように、MROCが本来期待されているインサイト創出の役割を果たすためには、本質直観型MROC実施が望まれます。

リサーチャーが、本質直観型MROCを実践することによって、マーケティング活動に有効な消費者インサイトが、MROCからより多く発見されることを期待します。

 

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