2014年4月29日火曜日

#117 「本質直観」その1:インサイト・コミュニティと本質直観


<第117回>  2014年4月

◆ 水越康介首都大学東京大学院ビジネススクール准教授、『普通の人が、平凡な環境で、人と違う結果をだす「本質直観」のすすめ』(2014年、東洋経済新報社)の中で、本来哲学用語である「本質直観」をビジネス、特にマーケティング活動において活用することを提案されています。

・ 今回のブログでは、マーケターやリサーチャーの方が、本質直観を実践する上で、ビジョン・クリティカル社の「インサイト・コミュニティ」という新しいリサーチ・プラットフォームが役立つのではないかと考え、本質直観を究めるツールとしての「インサイト・コミュニティ」の活用を提案致します。

 本質直観とは、ビジネス上で、生産的や革新的、創造的な優れたアイディア=ビジネス・インサイトを生み出すための思考方法です。

より具体的には、ある現象に接した時の驚きや直観(知覚体験)から得た自身の「確信」の確からしさや真偽を、独断ではなく、日常世界に支えられた一般性を有するレベルにまで、外部にたよることなく、自分自身の問題として真摯に、確信の根拠を「問い直す」方法です。

水越氏は、安易にデータを妄信するのではなく、自身の確信を大切にし、驚きや気づき、確信できる「自己」の思考力を高めることによって、自己の確信のレベルを強化することの重要性を強調しています。

・ 本質直観の文脈において、「マーケティング・リサーチ」は、最初の直観を得たり、自らの確信を自らが問い直し、鍛え上げるための「材料」(28頁)として位置づけられています。

「調査から得られたデータ」も、本質直観作業によってトレーニングされた個人によって、はじめて優れたビジネス・インサイトに昇華される可能性が高まると考えられます。

言い換えますと、リサーチの成否や良し悪しは、本質直観にすぐれたマーケターやリサーチャーによるところが大きいとも言えます。

 水越氏はさらに、本質直観を行うにあたって大事だと思うことは、「多くの知見に日常的に触れていること」であり、その知見に対して、「自分の問題として考え」、さらに「切実な問題として深く考える」ことだと指摘されています。(218頁)

しかし、現実問題として、マーケターやリサーチャーが、頻繁に繰り返しリサーチから「知見」を収集することは、予算的にも、時間的にも難しい面があるかと思います。

通常のアドホック調査では、企画を考え、調査対象者のリクルートを行い、調査を実施して、分析結果を出すまでには、多くの時間と費用がかかります。

さらには、定性調査と定量調査も、別々のアドホック調査として行われますので、さらに時間と費用がかかります。

● しかし、インサイト・コミュニティでは、1つのプラットフォームの中で、調査ごとに、新規の調査対象者のリクルートを行うことなく、定性調査と定量調査を迅速かつ、低コストで簡単に行うことが可能です。

なぜなら、インサイト・コミュニティは以下のような特徴を持っているからです。

インサイト・コミュニティについて:http://www.slideshare.net/Experidgejapan/ss-33925399
http://www.visioncritical.com/

・ まず、インサイト・コミュニティは、新しいマーケティング・リサーチのシステムです。

「コミュニティ」という単語がつきますが、MROC(Market Research Online Communities)ではありません。

・ 従来のグルインのような「定性調査」や、ネット調査のような「定量調査」を1つのプラットフォーム上で、早く、安く、いつでも、どこでも実施することを可能にした新しい調査プラットフォームです。

・ 上記の従来の調査はすべて、単発で実施・完了するいわゆる「アドホック調査」と呼ばれるものです。

アドホックの反対の言葉は、トラッキング調査です。多くの場合、調査対象者は、条件構成は同じですが、異なった対象で行われます。例外は、同じ人で行う「パネル調査」です。

インサイト・コミュニティでは、ブランドや商品のユーザーである「顧客」(カスタマー)をコミュニティ化して、同一の人に「各種の調査を継続的に実施」することが可能です。それゆえに、インサイト・コミュニティは、「コミュニティ・パネル」とも呼ばれています。

・ サーベイ・モンキーに代表されるDIY調査ツールは、オンライン上で簡単に調査実施を多くの人に可能にした点で、リサーチ史上、画期的なことでした。

しかし、調査を実施する相手、すなわち「調査対象者」が存在しなければ、調査を完了することができません。インサイト・コミュニティの場合、調査ツールを備えたプラットフォームの中に、調査対象者としてのコミュニティ・メンバーが常時存在しています。それゆえに、調査のたびに、対象者条件に基づいてリクルート作業を行う必要がありません。そのための余分な時間も費用も不要になります。つまり、インサイト・コミュニティでは、早く、安く、簡単に調査が実施できるわけです。

・ PCだけでなく、タブレットやスマートフォンからでも調査が可能ですので、参加メンバーが、調査のタイミングや目的によって、調査デバイスを使い分けることができます。ゆえに、いつでも、どこでも、消費者の生活に密着した調査が可能です。

・ 調査対象者をコミュニティ化することによって、参加者のエンゲージメントを上げ、参加率が高く、本音を引き出すことによって、より深い消費者理解をえることが可能です。

・ さらにコミュニティ化によって、同一の消費者の声を継続的に聞くことが可能になっています。


・ マーケターやリサーチャーが、自身の机上のPCを使って、本質直観の材料となる多くの調査知見をより深く、正確に、継続的に、迅速に効率よく収集することができます。

簡単に多くの知見に接することによって、自身の「確信」をよりブラッシュアップすることが容易になります。

◆ 以上のように、

日常の生活に密着したインサイト・コミュニティが、

マーケターやリサーチャーに、

顧客や消費者の毎日の生活と向き合いながら、日常的に「気づき」や想定外の驚きを得て、「確信」を実感し、消費者の「生活世界」をベースに、それらを「問い直し」続ける「本質直観」の作業のための

有効で、簡便な場を提供できると考えます。

それによって、リサーチャーやマーケターが、有効なビジネス・インサイトを発見する可能性が高まればと思います。

本質直観のツールの1つとして、今後インサイト・コミュニティが広く活用されることを期待します!

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<参考>

● 以下は、「本質直観」の理解を深めていただくために、著書の中からいくつかの説明を引用しました。ご参照下さい。

本書は、リサーチャー必読の書だと思いますので、興味ある方はぜひ購入されて、じっくり読んでいただければと思います。Kindle版で1140円です。

本書のタイトルから一見、マーケティングの本とは思われなかったり、売り場がマーケティングのコーナーでなかったりするのは少し残念です。

本質直観について:

・ 『本質直観とは、私たちが「本質を捉えた」と確信していることそれ自体を手がかりとして、むしろその根拠を疑い、問い直す作業』(1頁)と定義しています。

直観は、「直感を鍛え上げる、あるいは問い直す感じ」と、本能的な「直感」と区別しています。

● 「本質直観」とは、「自分自身が直感から得た確信の確からしさを問い直す方法」であると定義されています。

・本質直観は、リサーチ結果を鵜呑みにせず「自分で考えること」以上の事を意味しています。

・「だた1つどんなときにも確かなのは、あたな自身が持つあたなの確信だけだということです」(24頁)

・「確からしさをより強く確信するために、ひいては多くの人々に受け入れてもらうために、・・・自分の心を問い直すという作業をつねに行ってきた」(25頁)

・「自分の確信を、どれだけ自らのうちで鍛え上げられるかにかかっているのです」(26頁)

・「他人ではなく自分自身にその確信を問い直すことによって、その確からしさを高めようとしてきたのです」(27頁)

・「他人がどう思っているかではなく、自分自身のなかで自分の確信の理由を問い直す」(27頁)

・「自分の確信といっても、改めて考えてみると、結局は他人の意見であったり思いであったりに影響を受けていて、それは自分の日常の生活に支えられた一般性を有する(あるいは有さない)ということが理解できるようになっていきます」(28頁)

・「ビジネスのアイデアを手に入れるためには、相手をリサーチしても仕方がない、なによりリサーチするべきは、あなた自身の確信の根拠だということです」(46頁)

・「何かを気づく瞬間がある。この気づきの意味するところを自らのうちに遡って問い直すことによって、その確からしさが確認できるようになる」(125頁)

・「答えは顧客の側にではなく、己のうちにあると考える」(128頁)

・「何かしらの問題を量的に数え上げられるという仮定の下で収集されたデータを見ることを通じて、経営者やマーケターが自らの考えの枠組みを問い直す」(158頁)

・「そもそも外部に答えがあると考えない新しいリサーチの可能性を確認」(159頁)

● 本質直観に通じるリサーチの方法として、「オブザベーション」や「内観法」が、本質直観の視点から考察されています。

・オブザベーションでは、「最も大事なのは、消費者の側に答えがあると思わないことです。そうではなく、徹底的な観察を通じて自らが驚くこと、おして驚いたときに自らの内に宿るビジネスのアイディアを感じ取ることです」(104頁)

・「インタビューは何かの理由を明らかにしたり、その説明を行うためではなく、あくまでも生活世界の記述を行われるものです。・・・理由を考えてしまう以前に、その基盤となる生活世界のありようを明らかにしておこうということなのでしょう」(142頁)

・「本質直観をインタビューに応用する場合、重要になるのは、相手の発言の真意を確かめることではなく、発言それ自体を1つの事実として確定させたうえで、その発言を可能する世界のありようを明らかにしていくことだと思います」(144頁)

● さらに、「本質直観」と、「マーケティング・リサーチ」の関係については、

・「マーケティング・リサーチによって得られたデータは、まずは直感を得る材料として活用される・・・本質直観として最初の直感から得た確信を探るなかでも有益な事例となります。旧来のデータは、正しさを判定するというよりは、面白いアイディアを発見したり考え直したりするための材料の役割を担うのです」(162頁)

さらに、「マーケティング・リサーチを通じて得られた情報は、自らの確信を自らが問い直し、鍛え上げるための材料です」(28頁)

・つまり、リサーチは、本質直観の有力な材料の提供手段として位置づけられています。


<参考文献>

1)山崎晴生氏「本質直観の視点からmrocを捉え直すhttp://sssslide.com/www.slideshare.net/haruoyamasaki/20140310-mroc-32097647
著者の結論は、「MROCを成功させるためには、企業担当者の深い関与が不可欠となる」「リサーチ会社に丸投げのMROCは成功しない!」

2)水越康介氏まずは自分に注目せよ!本質直観のすすめ:哲学の方法をマーケティングに取り入れるということ」
 http://toyokeizai.net/articles/-/20178

3)http://mizkos.jp/data/2013/10/post-16.html
http://ddnavi.com/review/190434/
http://www.repository.lib.tmu.ac.jp/dspace/bitstream/10748/5501/1/10650-001.pdf#search='%E6%9C%AC%E8%B3%AA%E7%9B%B4%E8%A6%B3'

本書の目次>
第1章 優れた経営者は直観する
第2章 ソーシャルメディアから本質直観を考える
第3章 本質直観とは何か
第4章 誰のどんな声を聞いてどう応えるか?
第5章 市場志向がめざすものとは?
第6章 無意識は取り出せるか?
第7章 過去をたどって自分自身を問い直す
第8章 「質」と「量」の見かたを根本から更新する
第9章 リサーチを生かす組織の仕組み
第10章 ビジネス・インサイトの本質直観
第11章 本質直観の本質直観
第12章 直観をどうやって伝えるか(という問いは必要か?)

 

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