2011年6月20日月曜日

MROCとDIYリサーチ

《第62回》

◆今月のJMRX勉強会は、第1回「海外ゲスト・シリーズ」です。

その第1弾は、

6月14日(火)に、JMRX特別セミナー 「DIYリサーチ SurveyMonkey社 CEO講演」と題して、

USのSurveyMonkey社 CEOの Dave Goldberg氏にご講演していただきました。




企画をしていただいたJMRXメンバーの(株)トークアイ取締役の佐野良太氏に感謝申し上げます。また招聘にご協力いただいたOrinoco株式会社の岩下麻由様に御礼申し上げます。

会場を提供してくださった日本マーケティング・リサーチ協会ならび萩原雅之氏に感謝致します。

詳細は、http://kokucheese.com/event/index/12498/

SurveyMonkeyJapanのFacebookページ

当日の資料は、SlideShare http://www.slideshare.net/Orinocogroup/ss-8300136

1週間後に削除されるそうなので、JMRXのスライドシエア(オリノコさんの許可を得て)
15日には、第2回メンバーズFacebookインテグレーションセミナーでもご講演。

参考:

[jp]SurveyMonkeyが日本にやってきた理由―答え:日本は課金ビジネスが魅力的に見えるから

直子のより道

SurveyMonkeyをつかってみた


●欧米では、SurveyMonkeyに代表されるようなオンライン・ツールを使って、自前で調査を行う調査(調査票の作成から分析・レポーティングまで)を
DIY(Do-It-Yourself)リサーチと呼んでいます。(Self-Serviceリサーチとも呼称)


調査に詳しくても詳しくなくても、登録さえすれば利用可能です。無料版と有料版がありますが従来の調査に比べて格段に安く行うことが特徴です。

対象者のメールアドレスさえあれば調査は可能です。

メールアドレス1つで、企業と消費者が「つながる」ことが可能です。

ここ数年、ある種、ブーム状況です。というか、欧米では、MR産業の1つの流れになってきています。 単に、クイック&ダーティ的なネガティブ・イメージのリサーチ・ツールの域を超えたものになっています。昨年で、世界で約800億円の市場規模という試算もあります。
 
●その背景には2つの大きな変化があります。
 
1つは世の中の変化(不況)、もう1つは消費者の変化(ソーシャル・メディアの普及)です。

2008年9月のリーマン・ショック以降の不況下で、このDIY調査が特に盛んになりました。

SurveyMonkey社が、2年前まで12人であった社員が現在100名を超えているという講演でのDave氏の発言がそのもりあがりを象徴しています。

調査予算の大幅削減、あるいは調査のROI効率アップ、有効化アップのマネジメントからの強い要求下、クライアント・サイドが出した回答が、欧米ではDIYリサーチ・ソリューションでした。

●一方、WEB2.0以降、消費者が自分たちの意見をネット上で展開し、共有することが容易になりました。ブログだけでなく、FacebookやTwitterなどのSNSといったソーシャル・メディアが拡大・浸透し、オンライン上で消費者が本音を語りだしました。

オンライン上で、自らの意見を述べる機会を求めている消費者へのアクセスが容易になった点が消費者側の変化です。

このような変化への企業側の対応が、欧米ではオンライン・プラットフォームを使ったオンラインDIYソリューションであったわけです。

●これまでの説明で、今回のタイトルがどうして、「MROCとDIYリサーチ」であるかということがおわかりいただけたかと思います。

両者が、次世代MRにおけるオンライン・プラットフォーム・ソリューションであるという共通点を持っているからです。

さらに、MROC(Marketing Research Online Community)が、さまざまなDIYツールをコミュニティ内に装備することによって、

DIYリサーチのソースとしてのMROCの拡大が今後、期待・予想されています。

オンライン・プラットフォームでは、消費者のメール・アドレスさえあれば、リサーチ対象者(あるいはコミュニティ参加者)にアクセスすることができます。そうなれば、MROC内で、簡単にDIYツールを使って、定量・定性のさまざまな調査を行うことが可能になります!!!

この意味で、今後日本においても、SurveuyMonkeyのようなDIYツールが拡大・普及することが大きく期待されています。



●一方、DIY調査については、リサーチャーの間で多くの議論がされています。現在、リサーチ業界のホット・トピックの1つです。(残念ながら日本のリサーチ業界ではありませんが。。。)

昨年のESOMAR2010Congress会議での発表ペーパーで、大企業から中小企業のクライアントと、調査会社のリサーチャーなど約180人に、DIYリサーチについて実態と意見を尋ねた結果をレポートした

DIY - new life or the death of research?によると、

欧米では、大企業のリサーチャーがもっとも多く使っているそうです。やはり予算削減の圧力からDIY調査の促進が進められたようです。企業の担当者は、経営層から、1ペニーですら調査に使うことの正当性を示すことが要求されていると言われています。(同時に、アクショナブルなインサイトが経営層から要求されるゆえに、企業のリサーチャーは、データ収集の方法・品質にあまり関心をよせる余裕がなくってきているという指摘もあります)。

従業員や既存顧客のの満足度調査にまっさきに活用されたようです。毎年聞く質問が決まっていて、対象者のメール・アドレスが手元にあるものは、DIY調査の最初の候補です。

DIY利用理由の第1は、やはりコストが無料あるいは安いことです。使い方が簡単が続き、調査経験者にとって、より早く行える点も利用理由の上位にあがっています。

●マイナス面: 

間違った意思決定に導くリスク・危険性があり、多くの人の時間をムダにさせ、「悪い調査を行うのであれば、調査をしない方がよい」と指摘。誤った調査結果に基づく意思決定による失敗の代償は大きいと主張。DIYは調査の価値を低下させ誤解を生み、品質の低下は結局、誤ったビジネス意思決定をもたらすと警告ーアマチュアがリサーチ産業を破壊する。

①素人(アマチュア)の作った長くて、まずい「調査票」が増え、結局、対象者の協力率が低下する弊害(でもプロのリサーチャーが作成した調査票でもこのようなものが」あるので、この批判は当てはまらないとする人もいます)、

②調査の重要点がクリアできるかどうかが疑問:

1)正しい「調査目的」を設定し、2)正しい「対象者」に聞く(誰に)、3)正しい「調査票」の作成(何を聞くか)、4)インサイトをだすための正しい「分析」ができるかどうか、

③特に正しい「対象者」(サンプル)に聞けない場合がDIYでは多い、

④調査票に関連して、正しい回答選択肢(尺度)が設定されない場合が多い、

⑤調査デザインが、調査課題・目的と合致していない場合、つまり目的達成の最適なデザインになっていない場合がある、など。

●プラス面:

肯定派は大歓迎です。リサーチが一般に開放されたといい、有効活用できるようにいろいろと工夫をしようと積極的。Survey Monkeyは、リサーチを人々の身近なものにしたと絶賛。

①早くて、安くて、うまくできる利点ービジネス・ニーズに合致

②DIYによる調査が増えれば、リサーチの機会が増え、リサーチが浸透してよい

③DIY調査をやることによって、リサーチの難しさを実感して、プロのリサーチャーに依頼するケースが増える可能性

④安価なゆえに、大企業だけでなく、中小企業も意思決定に必要な情報収集のためにリサーチを行うことが可能になる、つまり、なにも調査を行わないで意思決定をするよりも、安価でできるDIY調査を実施した方がよい。この傾向はさらに広がると思われます、など。

●以上のように、DIY調査の普及は、リサーチ業界やリサーチャーにさまざまインパクトを与えています。

DIYリサーチの蔓延に対して、感情的・ヒステリックに否定する人、これまでのリサーチャーのキャリアを否定しかねないゆえに「パニック」になる人、調査の有効性を損なう可能性があるゆえに乱用・悪用を危惧する人。

一方、プロとしてのリサーチャーやリサーチそのものの「価値」の再認識や、グレードアップの好機と前向きにとらえる人々もいます。

●上にあげたDIYの欠点・弱点は、注意すれば防ぐことができることばかりです。

Sruvey Monkey側も、正しい質問文を事前に用意したり、英語版には、調査課題別のそれぞれ定番の質問をセット(テンプレート)で用意するなど、適切に利用されるような工夫をいろいろと凝らしているようです。

また、CEOも強調しているように、既存調査会社が行っているような複雑な調査には向かず、両者の棲み分けをしているとのこと。すべての調査に使えるというわけではありません。

●リサーチの正しい利用・普及のためにアドバイスをするのもリサーチャーの重要な役割です。

DIY調査の正しい普及に、リサーチャーも一役買う必要があると思います。

1社に1DIYリサーチ・ツール、あるいは各部に1DIYツールといった状況になった場合、リサーチャーもDIYツールに精通する必要が出てきます。

クライアントに対して正しい使い方のアドバスを行ったりする必要がでてきます。

クライアント側も、若手のリサーチ教育や、簡単な調査に、DIYツールを積極的に活用する機会が増えると思います。

●DIY調査への拡大に対して対応できない競争力のない調査会社やリサーチャーは、退場するか、グレードアップを余儀なくされます。

逆に言えば、調査会社やリサーチャーにとって、DIY調査の普及は、それぞれがアップグレードするよい機会でもあると言えます。

●日本では、不況下の調査予算削減に対して、単に調査プロジェクトの本数を減らす方向での対応策が中心で、欧米のように、調査ROIの徹底的な見直しや、オンラインDIYソリューションの採用(MROCやDIYツールの利用)といった方向には、現状なっていないように感じています。

単に本数を減らすだけでなく、いろいろな方法で対応が可能です。

景気が回復すれば、従来のようにプロジェクト件数が増加するだろうといった楽観的な考えが主流であるとしたら、景気状況とソーシャルメディアの時代に、その有効性と効率の面で変革を求められているMRにとって残念な状況です。欧米ではこのチャンスを積極的に受け止め、変革の試みが、次世代MRやNewMRの名のもとに盛んに議論や実践が行われています。

参考:

Why DIY Research is Good for Everyone

5 Dangers of DIY Research

DIY – Friend or Foe?

3M Disruptively Innovative DIY Research

昨年の12月17日付けのこのブログでも紹介しました、USの3M社が、Survey MonkeyなどのDIYツールを活用して、社内に効率的なMR部を創設し、75%も調査費用を節約した例を報告しています。

DIY: Opposition or Opportunity?

多数の参考文献を含む

DIY Research in a Social Media World

Do-It-Yourself Survey Research Roundup
⑧.SurveyMonkey CEO on the joy of DIY


SurveyMonkey’s CEO, Dave Goldbergとのインタビュー
 
1 Topic, 5 Blogs “Doing the Monkey”
 
DIYをめぐる有名リサーチ・ブロガー5人の議論



⑩その他のDIYツールサービス企業(定性を除く):

- SurveyPirate

- Snap Surveys

- Zoomerang

- SurveyGizmo

- Micrpoll

- QuestionPro

- Survey Analytics


◆第2弾(第14回JMRX勉強会)は、今週23日(木)に、GMOリサーチ大会議室で開かれます。

シンガポールの製品開発・イノベーションのコンサルタント会社Tapestry Worksの代表

ニール・ゲインズ(Neil GAines)博士に、

●「製品開発とイノベーション:成功するための3つのポイント」
 (3 behavioural keys to successful research + innovation) について講演していただきます。

お申し込みは、http://kokucheese.com/event/index/12497/

●博士のブログ

Doctordisruption

Inspectorinsight

Twitterは、 @neilgains  @tapestryworks


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このブログは毎週、月曜日中に更新されます。

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