2010年12月17日金曜日

「代表性」神話の呪縛からの解放

《第46回》


今週のTOPICS

◆「代表性」神話の呪縛からの解放

・先週、リサーチ以外の部署で働くメーカーの方にお会いしました。その方が所属する会社のマーケティングやリサーチの担当者が、データを示した時に、必ずその調査の対象者の「代表性」について尋ねてくると言っていました。「代表性」のないデータは信頼できない、使えないという主張です。

・調査の目的からみて、調査は大きく2つに分類することができます。

すなわち、マーティングの意思決定のリスクを低減させるための調査と、消費者インサイトをえるための調査です。もちろん、両者は排他的な関係でなく、重複する部分もあります。リスク低減調査で、インサイトを発見することもできます。

一般的には、前者のリスク低減調査の場合、得られた結果が、調査対象集団(カテゴリーユーザーやターゲットグループなど)を正確に測定していることが要求されます。

調査対象者(サンプル)から調査母集団の値を正確に推定するためには、サンプルの代表性が求められます。そのために対象者の抽出には、「ランダム確率サンプリング」が行われます。

代表性が確保されるゆえに、その結果の「一般化」が保証されます。偏った一部の人に尋ねた結果に基づいて、意思決定を行うと失敗するリスクが高くなると考えられます。それゆえに、リサーチャーは「代表性」に非常に敏感に反応します。

つまり、「代表性」があるということは、リサーチャーが、正しいことを行っている「証明」にもなっていると言えます。

・これに対して、最近では、前前回のブログ(『こんな「調査部」ならいらない?』)でも述べましたように、

(1)そもそも代表性の確保が難しくなってきている、
(2)代表性のある調査で、有効なインサイトをえるとは限らない、むしろそうでない方が良い結果を得る可能性が高くなっている
(3)代表性のある調査から得られた割合や平均値が描く平均的な消費者像の意味が問われている

・マーティング活動を行う上で、「現状」を正しく把握することは非常に重要です。そのためには「代表性」の確保は大切です。認知率や購入経験率、顧客満足度などの指標の正確な測定は、マーティング活動の改善のための重要な指標になります。

しかし、その一方で、企業活動の根幹である新製品やサービスの開発といったイノベーション分野においては、「代表性」への固執はむしろ障害になる場合があります。

いくら消費者の評価を正しく測定しても、評価する「製品コンセプト」が魅力的で受容性が高いものでなくては意味がありません。魅力的な製品アイディアをえるためには、「代表性」神話の呪縛から解放される必要があるように思います。

イノベーションが求められる現在、代表性を守っているから、リサーチャーの仕事をしている、あるいは責任を果たしているとは言えない時代になってきているように感じます。


◆第8回JMRX勉強会開催

・首都大学東京の朝野熙彦教授をお迎えして、「事前分布との出会い」と題して、12月15日(水)に勉強会を開きました。

場所は秋葉原のインテージ会議室。19:30-21:00講演。21:00-23:00懇親会。

参加者数は、46人(懇親会は26人)。

まとめ:

①重回帰分析で確率を予測するのはやめよう
②事前分布が無情報なら、多重ロジスティック関数はロジスティック回帰分析に一致する
③多重ロジスティク関数は事前分布の組み込みが簡単
④群の構成比が偏ったデーアの場合、ベイズ法が有効
⑤日常生活と無関係な知識が役立つことがある

内容の一部について、下記のブログ参照。

マーケティングリサーチとベイズ推定

【配布資料】 *当日の使用パワーポイント資料は、残念ながら非公開です。

「事前分布との出会い」http://www.slideshare.net/ShigeruKishikawa/ss-6240805

*デジカメ持参を忘れましたので、今回は写真アップはありません。ご了承下さい。


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今週のHOSMR

・Ray Poynter, ’The Handbook of Online and Social Media Research: Tools and Techniques for Market Researchers’の内容紹介メモ(著作権の侵害をしないように、独断と偏見によるポイントの要約)の第13回目です。

パートIV リサーチ・トピックス

第14章 スペシャリスト・リサーチ分野

海外リサーチ(今回)
BtoBリサーチ
公共分野のリサーチ

1.海外リサーチ

・インターネットによる国際MR調査

1.1 全体像

・国別インターネットの普及率

・国別オンライン・リサーチ率

・オンライン・パネル会社によってカバーされている地域別国名

1.2 インターネットの可能性

・Better, Faster, Cheaper

1.3 海外(マルチ・カントリー)オンライン・リサーチの罠

1)ローカル・パートナーが存在しないケース

2)同じ調査を複数の国で同時に行い、結果を単純に比較するケース

3)国別のインターネットの普及率の違いによって、代表されているサンプルに偏りが生じるケース

4)対象者属性の違いー特に国による年令構成が異なるケース

5)国によって、季節が異なるケース(北半球と南半球)

6)文化が異なるケース

7)言語が異なるケースー自由回答の翻訳の問題

8)国によって該当しない質問があるケース

9)1つの国に複数の言語があるケース

10)使用する言葉が異なる意味を持つケース

11)謝礼の取り扱いが国によって異なるケース

1.4 オンライン海外定量リサーチ

・ブランドや製品リストが国によって異なる問題

1.5 オンライン海外定性リサーチ

・翻訳が大きな問題

1.6 ソーシャル・メディアと海外リサーチ

・ブログやバズ・マイニング、オンライン・コミュニティが可能。しかし翻訳の問題。
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週刊リサーチ・ブロゴスフィア
Weekly Research Blogosphere

*1週間の世界中のリサーチ関連の主なブログ・テーマを簡便に
レビューすることができる「週刊リサーチ・ブロゴスフィア」です。
興味をもたれたブログの詳細は、リンク参照。
⇒は投稿に対する個人的コメントです。

◆先週(12月11日-12月17日)分の世界のリサーチ・ブロゴスフィア

今回は、23ブログの29投稿をレビュー

《海外編》

1.Jeffrey Henning 's Vovici

1.Research Roundup - Predictions, New MR, Games (12/11)

・#MRXの週間レビュー

2.Stats are for Losers (12/12)

・MRはビジネスを成功させるための統計を測定している
3.House Panels in the Ideal World and in the Real World (12/14)

・企業内の顧客リストによるハウスパネルの問題:代表性があるかどうかは、構築された経緯を考慮する必要がある。

4.4 Trends Reshaping MROCs (12/15)

・NewMR Virtual Festivalの報告



5.Mr. Survey Flirts with Ms. Social Media Research (12/16)

・NewMR Virtual Festivalの報告


6.Surveyese Spoken Here... Unfortunately (12/17)

・調査票の作成について

2.Joel Rubinson on Marketing Research

7.Eight guidelines for real time marketing (12/13)

・リアルタイム・マーケティングの8つのガイドライン

3.Rearch Rockstar

8.Social Media Research to Capture 25% or more of MR budgets by 2012. Or Not.(12/14)

・MR動向予測

4.Tom H. C. Anderson - Next Gen Market Research

9.3M Disruptively Innovative DIY Research (12/15)

・NGMR賞を受賞した3M社のリサーチャーへのインタビュー

5.The Future Place Blog

10.Festival of NewMR – Where Next? (12/14)

・NewMR Virtual Festivalの報告


11.Measuring the NewMR Buzz(12/15)

・NewMR Virtual Festivalの報告


6.Random Sampling

お休み

7.Straight Talk with Nigel Hollis

12.The China Challenge  (12/13)

・中国の消費者におけるブランド・ロイヤルティ形成の難しさ

13.Is there a shortcut on the long road to Chinese global brands? (12/15)

・中国発のブランドについて

8.LoveStats

14.Reminiscing the First Annual 2010 New MR Virtual Festival #MRX (12/15)

・NewMR Virtual Festivalの報告

15.Researchers Discover The Sixth Sense #MRX (12/17)

・Sixth sense=インサイト

9.The Surrvey Geek

お休み

10.Insites Blog

16.Youp and NCR collect customer service complaints (12/13)

・ヘルプデスクの評価についての分析結果
17.ESOMAR Qualitative Conference 2010 (12/14)

・ESOMRの定性会議報告
18.Paper on Research Communities accepted for MOA Yearbook 2011 (12/15)

・MOA(オランド・マーケットリサーチ協会)の年次報告

19.Missed the Best Workshop at the MIE 2010? (12/16)

・MIE(マーケティング・インフォメーション・イベント)での発表
20.Co-creating the future of research communities together with clients (12/17)

・Client Connect Dayのイベント報告

11.The Researcher's Perspective

お休み

12.Future of Insight

お休み

13.Voices of CMB

21.Market Research in 2011: Don’t throw out the baby with the bath water(12/17)

Don’t throw out the baby with the bath water
大事なもの(赤ん坊)を不要なもの(風呂の水)といっしょに捨ててはならないということ

・MRでは現在、新しい手法の話題が多いけれでも、伝統的な調査手法の良い点を生かす視点も重要であることの指摘。

14.The Forrester Blog

22.US Consumers Now Report Spending Equal Time With TV And The Internet (12/13)

・USの消費者が、TVを見る時間と、インターネットを使用する時間が初めて同じになったという調査結果の報告


《国内編》

15.MARKETING RE-SEARCH BLOG

23.可視化され、データ化される「つながり」(12/15)

・「インタレストグラフや位置情報などによる精緻なユーザー情報の蓄積は、これからのマーケティング、マーケティング・リサーチとどう共存繁栄していくのか。私は全てがデータ化される時代のリサーチはより「リアルタイム」、さらには「予測」になるんじゃないかと思っています。」

16.Marketing Research Watch

お休み

17.マーケティング・リサーチの寺子屋

24.『「つながり」を突き止めろ』 (12/14)

・「「つながり/ネットワーク」は、いまを、そしてこれからを理解する上では欠かせないキーワードになっています。」

18.tanoue40's Blog

お休み

19.アウラなブログ

25.http://auraebisu.blog53.fc2.com/blog-entry-232.html「来るはずが来なかった」症候群 (12/14)

20.きまぐれ リサーチャーどうでしょう

お休み

21.いまんとこの最適解

26.コトラーが教えてくれたこと 女子大生バンドが実践したマーケティング (12/11)

・「マーケティング理論を学んだこともない人も、既に学んでいる人も一読の価値はあると思います。」

27.マーケティングリサーチとベイズ推定 (12/16)

22.みんなのMR.COM

28.New MR Virtual Festival開催!(12/10)

23.Digital Consumer Planner's Blog

29.ブランド・リスニング(傾聴)事例の紹介 (7) ブランド成長の動因 ① (12/10)

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